ドイツ語紹介

Q&A

ドイツ語初級カリキュラムの解説

<目標>

ドイツ語部会では、先述の「目的」を具体化した以下の5項目を、カリキュラムの「目標」として設定しています。

ドイツ語の基本的な文法の理解と初歩的な運用能力の修得(文系、理系とも)
ドイツ語に基づく文化への理解を、ドイツ語の修得をつうじて培ってゆくこと(文系、理系とも)
ドイツ語に基づく学術・文化に自分の力で触れてゆける能力を修得し、ドイツ語Ⅱへの橋渡しとすること(文系)
日本語以外の他言語、他文化に対しても、ドイツ語を1年間学んだ者として、柔軟な感覚を身に付けること(理系)
大学卒業後も、ドイツ語やその他の初修外国語に対して積極的に向き合える姿勢を身に付けること(文系、理系とも)

<能力>

①から⑤の目標に到達するために必要な能力を次のように定めています。

A.
文法の基本的な骨格と最低限必要な語彙を覚えていること(目標①に対応)
B.
ドイツ語とドイツ語圏の文化の結びつきを理解できること(目標②に対応)
C.
やや複雑なドイツ語の文章でも辞書を用いれば読み取ることができること(目標③に対応)
D.
ドイツ語の基本的な理解に基づく、他言語、他文化に対する鋭敏な感覚を有すること(目標④に対応)
E.
初修外国語の修得に、必要に応じて対応できる能力を有すること(目標⑤に対応)

<課題等>

  • 文法クラスでは、京都大学でのドイツ語の学習に最適のものとして、5冊程度の教科書をドイツ語部会で選定しています。いずれも、ドイツ語の理解に必要な文法事項をきっちりと網羅したものです。そこから各担当者が選択したものを用いて、1年間をつうじて、ドイツ語の文法を学習していきます。そのなかで、教科書の短い文章の読み取りをつうじて、辞書の使い方、初修外国語の文法を修得する方法論をも身につけていきます。
  • 演習クラスでは、文法クラスの担当者と連携を取りながら、その進度に応じて、読み取り、書き取り、対話(パートナー演習)など、多様な形態でドイツ語を学んでいきます。とくに映画などの映像表現にふれる時間を演習クラスでは1年のあいだに必ず組み込んでいます。
  • 文法クラス、演習クラスとも、平常点(宿題、発表、小テストなど)40%、期末テスト60%を基本に、クラスごとに成績評価を行います(授業の性質によって判定方法に多少の違いがあり得るので、シラバスや授業時の説明で確認してください)。
  • 1年生でドイツ語をさらに積極的に学習したい意欲的な学生のために、週6時間のクラスも開講しています。

ドイツ語初級カリキュラム見取り図

ドイツ語紹介

京都大学が三高/京都帝国大学と呼ばれていた頃,学生たちの大半はドイツ語を学んでいました。カントとゲーテの言葉としてのドイツ語が,当時他のどの言語にもまして学問と教養の言葉だったからです。それから長い年月が過ぎましたが,学問・教養・知を求めて京都大学の門をたたいた学生諸君にとって,ドイツ語は今でもきわめて重要な外国語です。

諸学の学としての哲学は,これを体系的に学ぼうと思えばドイツ語が不可欠です。近代哲学史の根幹をなすのは,カントからフィヒテ,シェリング,ヘーゲルへとつながるドイツ観念論哲学だからです。京都学派の西田哲学もドイツ観念論哲学との対決なくしては成立しませんでした。20世紀の新しい哲学として登場した現象学や分析哲学も,その基礎を築いたのはフッサール,フレーゲ,ヴィトゲンシュタインというドイツ・オーストリアの哲学者たちでした。

学としての哲学に限定せず,広く現代のさまざまな問題を考える際にも,その手がかりとなるのはマルクス,ニーチェ,フロイト,ヴェーバーといった,ドイツ語で思考した思想家たちです。人間と社会のあり方,あるべき姿を追究しようと思えば,今もこの現代思想の起点に立つ知の巨人たちの思想を知らずして一歩も前に進めないと言っても過言ではありません。

ドイツ語の重要性は人文学・社会科学に限りません。自然科学のほぼすべての分野において,その基礎を築くのにドイツ語圏の学者が大きく関わってきました。たとえば,現代物理学の起点となる量子力学と相対性理論は,ドイツ・オーストリアの学者が中心となってその基礎を築きました。量子力学の基礎を作ったのはプランク,ハイゼンベルク,シュレーディンガーであり,相対性理論を生みだしたのは,いうまでもなくアインシュタインです。

物理学だけではありません。森鷗外や北里柴三郎がベルリン大学に留学したのは,そこに細菌学のコッホがいたからです。北里柴三郎はベルリンで,第1回ノーベル生理学・医学賞(1901年)を受賞したベーリングと共同でジフテリアの血清療法の研究をしています。(北里は残念ながら受賞を逃しました。)ちなみに,第1回の物理学賞を受賞したのはレントゲンでした。自然科学3部門のうち2部門をドイツの学者が受賞したのです。その後も多くのノーベル賞受賞者がドイツ語圏から輩出しました。1901年から(ナチスが権力を掌握する)1933年までの間,物理学賞と生理学・医学賞は3割近く,化学賞にいたっては5割近くの受賞者をドイツ・オーストリア・スイスのドイツ語を母語とする人間が占めていたのです。

この学問的伝統の礎を築いたのは,19世紀初頭の文人政治家フンボルトでした。ゲーテやシラーの友人であったフンボルトは,ドイツ新人文主義の理想を具現したまったく新しいタイプの大学を1810年のベルリンに作ったのです。それまでの大学に求められていたのは,知識の伝授と社会の役に立つ職業人の育成でした。フンボルトはそれを拒み,大学とは「永遠の探求」としての学問の場であり,そこで育成するのは純粋学問によって人間形成を行う「自由な人間」だ,と宣言したのです。これは当時としても非常識な考えでしたが,理想主義者フンボルトは真剣にそう考えました。結果的にフンボルトのベルリン大学はその後のドイツ,さらには世界の研究大学のモデルとなり,ドイツの学問的地位を飛躍的に高めました。上に述べたドイツの学問の系譜はその現象面での現れに過ぎません。

現在に目を転じると,フクシマ以後,いち早く脱原発を決定したドイツの政治判断が思い出されます。以前から環境問題の先進国であり,脱原発への道を準備していたとはいえ,あれほど迅速な決断が下せたのは,その背景にドイツの知的・倫理的伝統があったからでした。ドイツの原発とエネルギー問題の未来を定めるにあたって,メルケル首相がとった方法をご存じでしょうか。彼女は原子炉安全委員会に原発の技術的安全性の検討を指示すると同時に,哲学者や社会学者,宗教者らからなる「倫理委員会」を立ち上げ,彼ら非専門家知識人に原発存続についての倫理的検討を委ねたのです。その結果が,10年以内の脱原発と代替エネルギーへの転換でした。社会の倫理的価値判断が技術的・経済的問題に優先するという倫理委員会の考えには,カント以降,あるいはフンボルト以降,人文主義的理想主義を追求してきたドイツの精神史的伝統が息づいています。ドイツ語を学び,ドイツ語が読めるようになると,こうした,これまで皆さんが知らなかった別の世界が見えてくることにもなるのです。

日常レベルで見ると,ドイツ語はドイツ,オーストリア,スイス,ルクセンブルク,リヒテンシュタインといった国々の公用語であり,現在1億人を超える話者によって使用されています。これはEU内で使用される頻度ではトップに位置し,さらにEU新規加盟国で学習される頻度も英語に次いで第2位,インターネット上で使用される言語でもやはり第2位を占めています。このように,ドイツ語が話せたり読めたりすれば,上にあげたドイツ語圏の人々だけでなく,オランダ,ベルギー東部,デンマーク,スウェーデンなどの北ヨーロッパの国々の人々,あるいはチェコ,スロヴァキア,ポーランド,ハンガリーのような東欧の人々とも,会話やメールなどで意思の疎通ができるようになります。

ドイツ語を学ぶことは,すでに学んだ英語をよりよく理解することにもつながります。一例をあげれば,英語では(he) canのように助動詞には-sの語尾を付けませんが,ドイツ語でも(er) kannのように三人称単数現在形で語尾が付きません。形容詞でもgood-better-bestがドイツ語のgut-besser-bestに対応し,両言語が同じ起源に遡る言語であることを示唆しています。皆さんの先輩の中には,実際,ドイツ語を学んで英語の読み方が変わった,以前よりもずっとよく読めるようになったと言う人もいます。

ドイツ語はこのように今でもたいへん役に立つ言語ですが,ドイツ語を学ぶことの意味は,ただ何かの役に立つことに留まるものではありません。ドイツの哲学や文学を専攻したい,将来EU圏で働きたい,モーツァルトのオペラが聴いてわかるようになりたい,という人のためだけにあるのでもありません。ドイツ語を学ぶことは,フンボルトの考えたように,役に立つかどうかという基準でものを見ることを拒否し,「永遠の探求」としての学問の系譜に連なることをも意味します。純粋な知の探求に没入して「自由な人間」になるために,多くの学生諸君がドイツ語を学ぶことを私たちは期待しています。

Q&A

  • ドイツ語は発音が難しくないですか?
    ドイツ語の発音はローマ字読みでほとんど大丈夫です。Haus「家」はそのままハウスと発音します。二重母音eiをアイ,euオイと読む点は注意が必要です。因みに日本の様々な学問分野は明治時代にドイツを手本としたので,例えばPHをピーエイチと英語式ではなく,ペーハーとドイツ語読みしています。このような例は数えればきりがありません。
  • ドイツ語に関する資格試験はありますか?
    ドイツ語技能検定試験(独検)があります。この検定試験は年2回春と秋に行われ,1級,準1級,2級,3級,4級,5級の6つのレベルに分かれています。近畿地方では3つの会場で試験が受けられます。独検は英語以外のプラスアルファの資格となります。
  • ネイティヴスピーカーによる授業はありますか?
    1年次にインテンシブコース,2年次にドイツ語会話とライティング,およびインテンシブコースなどがあり,希望者は受講することができます。また,初めからドイツ人のみによる授業が不安な人には日本人教員とのペア授業も開講されています。
  • ドイツ語にも地域差がありますか?
    はいあります。ドイツ語は北部・中部・南部によって大きな差があります。大学で習うドイツ語は標準ドイツ語(ホーホドイチュHochdeutsch)で,16世紀の宗教改革者ルターが用いた中部ドイツ語を基に成立しました。挨拶の言葉にも地域差があり,ミュンヘンなどの南部の都市では例えばグーテンターク(Guten Tag !)の代わりにグリュースゴット(Grüß Gott !)といいます。
  • どんな点で英語と大きく違いますか?
    系統的にドイツ語は英語に非常に近い言語ですがもちろん様々な点で異なっています。例えば,2人称の相手が身近な人かそうでないかによってズィー(Sie)とドゥー(du)という2つの代名詞を使い分けます。ズィーとドゥーのどちらを使う相手であるかによって別れの挨拶もそれぞれアウフヴィーダーゼーエン(Auf Wiedersehen !)とチュス(Tschüss !)のように異なります。
  • ドイツ語を学習する意義を一つ挙げると?
    ドイツは環境問題先進国として有名です。ドイツ語で書かれた環境問題のテキストは私達に大きな示唆を与えてくれます。ちなみに,エネルギーという語はドイツ語のEnergieに由来します。クリーンエネルギーの道を歩むドイツに見習うことはたくさんあります。
  • ドイツ語の単語はなぜ長い?
    例えば(ボール)ペンのことをヨーロッパの多くの言語ではラテン語に由来するp-で始まる短い単語で表すのに対してドイツ語ではKugelschreiber(クーゲルシュライバ) という合成語で表します。この語は“球+書き手(>筆記用具)”の意味で,ドイツ語ではこのように合成されてできた語がたくさんあります。それは17世紀にドイツで起こった外国語の氾濫から自国語を守る思潮と関係しています。