政治指導者論 2010年度

 大学で学ぶ学問の目的は、多くの専門的知識を獲得することではなく、自分で考える能力を身につけることにあります。いささか図式的に言えば、高校までの「勉強」が、「問題」に対する「解答」をいかに出すかに関心を向けるのに対し、大学の「学問」は、「問題」自体を探し出すことを目的としていると言えます。物事を根本から疑い、批判的に考えることは、時に苦痛や困難を伴いますが、非常にスリリングで、楽しいことでもあります。また、物事を根本から考えるという能力は、文系・理系を問わず、分野を越えて全ての大学生に最終的に求められているものだと思います。ポケットゼミは、このような学問の面白さを、大学に入学したばかりの1回生に対して伝えることを主目的としています。受講生も、あらゆる学部の学生を対象にしています。

 私は法学部に所属し、日本政治外交史という分野を専攻しています。この分野は、日本の政治・外交を歴史的視点から考察するもので、近現代日本の政治、外交に関すること全てが研究対象となります。高校の日本史の近現代分野を発展させたものというとイメージしやすいかもしれませんが、単にそれを詳しくしたものではありません。この分野は政治学の一領域を形成しており、憲法、国際法、法制史などの知識が不可欠です。また、この分野は歴史学の一分野でもあり、西洋史、東洋史にも通じ、できれば複数の外国語を習得することが求められます。私自身は、「大正デモクラシー」という言葉で知られる大正~昭和初期の政党政治、幕末から第二次大戦期ぐらいまでの日英関係といったことを研究しており、最先端の研究成果を積極的に授業に反映させていこうと思っています。

 このように書くと「高校で日本史を取っていないから無理だ」「語学が苦手だからやめておこう」などと思われるかもしれませんが、ご心配は無用です。この授業は、学問の最先端を極めるというよりは、その雰囲気を味わってもらうことに主眼を置いています。そのため、人間=「政治家」という、歴史を理解するのに比較的取っつきやすい素材を取り上げ、彼らの政治指導を検討するということを通して、近現代日本の政治・外交とはどのようなものだったのかを考えていきます。具体的には、受講者に興味のある政治家を一人取り上げて自由に発表してもらい、それに基づいて全員でディスカッションをしていきます。近現代の日本を駆け抜けた様々な政治家たちについて考察することで、高校までの勉強では味わえなかった歴史の醍醐味を感じて欲しいと思っています。
 2009年度に取り上げたのは、以下のような政治家たちです。
 徳川慶喜、井伊直弼、山県有朋、陸奥宗光、西園寺公望、加藤高明、後藤新平、高橋是清、広田弘毅、近衛文麿、鳩山一郎、吉田茂、田中角栄
 なお、2009年度の授業の最終回には、京大のそばにある西園寺公望の別荘跡(清風荘)を皆で見学しました。

奈良岡聰智准教授

法学研究科
専門分野:日本政治外交史