戦後世界経済史 2010年度

 ポケットゼミの受講登録を行う際の注意書きに、【1】「できるだけ自分の学部以外の教員と接することによって視野を広げ、人間・社会・自然について深く考える力を養成するようにしてください」とあり、そのことによって、【2】「フェイス・トゥ・フェイスの親密な人間関係の中で、わからないことなどを直接教員に聞き、アドバイスをもらうこともできるでしょう」と書かれてある。

 本ポケゼミの場合、【1】について言えば、登録者15名のうち8名が経済学部生、7名が他学部生(法・文・農学部生)であり、ほぼ要請を満たしているだろう。【2】については、最終的には授業評価アンケートで確認するしかないが、開講後2ヶ月時点での教員の感触では、「フェイス・トゥ・フェイスの親密な人間関係」は、ほぼ築かれたのではないかと考えている。ただ、「わからないことなどを直接教員に聞きアドバイスをもらう」という点に関しては、「学生がわからないはずだと思われることを教員が懇切丁寧に教えている」という一方通行に止まっているはずである。これは、学生側の問題というより、私がお節介でおしゃべりであることが主要な要因である。

 本ゼミは、猪木武徳『戦後世界経済史:自由と平等の視点から』(中公新書、2009年)という「テキストを読む」ことを主眼に置いている。著者は、京大経済(学部)⇒東大経済(修士)⇒MIT(博士)⇒阪大経済(教授)⇒日文研(所長)という華々しい経歴と数々の受賞歴を持ち、同著は406頁という新書としては破格の大著である。私が今年度ポケゼミを担当しようとしたきっかけは、昨年この著作が公表されたことにあると言って過言ではない。
 体系的な知識の習得は、通常講義で得られるはずだから、私は上記のように、「学生がわからないはずだと思われることを、教員が懇切丁寧に教える」こと、しかも難解な経済用語や細かな歴史的事実を解説するのではなく、むしろ何気なく読み飛ばしてしまうであろうことに対して、学生にツッコミを入れている。
例えば、「政府が財政政策や金融政策を発動して、インフレを抑制し失業をなくすことは政府の当然の任務と考えているが、1940年代まではこれは決して理の当然ではなかった」という一文。これに対して「何で失業をなくすことが政府の任務ではなかったの?」というツッコミ。学生沈黙ないしはポツポツと独り言。「救貧法など貧乏をなくすことは政府の仕事だったが、失業をなくすことは政府の仕事とは考えられていなかったのだよ」と言って、マクロ経済学の考え方を使って延々と解説、という感じである。
 これはこれで、最初はやむを得ないやり方かもしれないが、最終的には、学生が自分で問題提起を行い(ツッコミを入れ)、それらを彼らの間で議論をし、彼らの問題解決に一定のアドバイスを行う、というようなゼミにしたいと思っている。これがポケゼミの本来のインストラクター役割であると思っている。

岩本武和教授

経済学研究科
専門分野:国際経済学