植物と微生物の戦い 2010年度

 病害による世界の農業生産被害は約15%といわれており、これは8億人の食糧に値すると推定されています。そして、植物病害の80%以上は、糸状菌(カビ・菌類)によって引き起こされており、病原糸状菌の感染脅威から、有用植物を保護する技術は、人類生存の生命線といっても過言ではありません。本ゼミでは、この農業被害の背景において、日夜、繰り広げられている、植物と病原微生物(特に糸状菌)の熾烈な攻防戦に焦点をあてます。

 ポケゼミは、少人数の学生を対象としており、そのため、受講生と教員、そして受講生同士の密なコミュニケーションを実現できる利点があります。この点を最大限に活かし、本ポケゼミでは、「植物と微生物の攻防戦」を単に勉強し、その知識を習得するだけでなく、この学問領域をひとつのケーススタディとして、「研究とは何なのか?」について、その具体的イメージを一回生の皆さんに感じ取ってもらうことを目標としています。

 植物は、病原微生物との果てのない戦いの中で、驚くほど、巧妙な抵抗性メカニズムを獲得していることが、近年の分子生物学的研究により、徐々に明らかになってきています。本ゼミでは、この植物抵抗性を支える分子メカニズムを対象とした、多面的な学習プログラムを設定しています。まず、最初のステップとして、受講生の皆さんには、植物抵抗性のエッセンス的レクチャーを担当教員より受け、この領域の基礎知識を身につけていただきます。研究活動において、国際的雑誌に発表される科学論文(いわゆる原著論文)を読み、理解することはとても重要なプロセスです。そこで、レクチャーに続いて、関連する科学論文(英語)の輪読に挑戦してもらい、そこから、研究における、データの厳密な解釈、精緻な論理の展開について学習してもらいます。
 また、大学院生とのディスカッションの時間を設定し、研究を実際におこなっている先輩との交流から、研究活動の臨場感を感じ取ってもらいます。さらに、研究室見学、および、植物抵抗性に関わるいくつかの実験の実施を計画しており、これらの活動を通じて、研究というものの具体像を受講生に紹介していく予定です。
 そして、最後の試みとして、受講生自身が、関連する新たな科学論文を読み、理解し、他の受講生の前でその内容を紹介する、「プレゼンテーション」に挑戦してもらいます。これら一連の植物抵抗性研究に焦点をあてた多面的な学習を通じて、研究とはどのような活動なのか、その具体像を受講生の皆さんにお伝えしたいと考えています。

 本ゼミは、このように、一回生にとっては、チャレンジ性の高い内容になっていますが、少人数制の強みを生かし、密な相互コミュニケーションをおこなうことで、一段ずつ、着実に階段を上っていきたいと思っています。ぜひ、参加してみてください。

野義孝准教授

農学研究科応用生物科学専攻
専門分野:植物病理学