脳科学の神話を検証する 2010年度

 この20年間の神経科学の急速な進歩で、脳に関して様々なことがわかってきました。しかし、マスコミによってその一部が取り上げられ、脚色され、科学的根拠がない情報が発信されることがよく見かけられます。これは、"Neuromyth"(神経神話)と呼ばれ、OECD(経済協力開発機構)でも取り上げられ、注意が喚起されています。このゼミではそのいくつかを取り上げ、この「神話」のもととなった論文を探して読み、科学的に検証していきます。

 まず、"Neuromyth"(神経神話)を知ってもらうため、OECDのウェブページや、OECDからの報告書を輪読し、主な"Neuromyth"(神経神話)について学び、自分たちが「脳」について知っていることについて、どのようにしてその知識を得たか考えてみます。
 次に、脳・神経系の働き方や構造、研究手法など、"Neuromyth"(神経神話)の科学的な根拠を検証するために必要な基本知識を学ぶため、神経科学の教科書の相当する章を輪読します。
 脳科学の神話には、OECDで取り上げられている「私たちは脳の10%しか使っていない」、「左脳型の人と右脳型の人がいる」とか「男女の脳は違う」といったものの他にも、私たちが時々見聞きすることのある「モーツァルトの音楽を聴くと頭がよくなる」といった神話もあります。神経科学の基本知識の学習を進めていく過程で、脳科学の神話(あるいは学説)の中から聴講生自身が興味をもったものについて調べてもらいます。各自が選んだ神話のもととなった論文をPubMed(論文データベース)などで探し、順次その内容について発表、説明します。論文で示された実験結果と神話との関わり方について全員で討論し、検証していきます。

 このゼミに参加して学ぶことで、脳の働きが現時点でどこまでわかっていて、何がわかっていないかを知り、実験結果をどこまで一般化してよいのか考えてもらい、今後新たに生まれてくるであろう神話にも、科学的根拠に基づいた客観的な評価ができるようになってほしいと思っています。

河野憲二教授

医学研究科
専門分野:認知行動脳科学