教育方法学入門 2010年度

 大学には、大きく二種類の授業があります。講義では、担当教員が学問の成果を伝えます。一方、ゼミナール(演習)では、受講している学生たち自身が、学問を創出する作業に参画することとなります。ポケット・ゼミは、1回生の皆さんに、初めてのゼミを体験してもらう機会となります。

 さて、教育とは、子どもの発達を助けるために行われる意図的な働きかけの営みです。教育方法学は、そのような働きかけをどうすれば効果的にできるのかを探究する学問です。
 このゼミでは、教育目標、教材・教具、指導過程と学習形態、教育評価といった教育方法学の基礎的な概念について説明するとともに、基本的な論点をいくつか取り上げ、それに関わる教育実践の事例を検討しています。具体的には、「荒れたクラスをどう立て直すか」、「楽しくて力のつく授業をどう作るか」、「魅力的な学校をどう作るか」といった論点に関して、小西健二郎、吉本均、今泉博、安井俊夫、玉田泰太朗、鳥山敏子といった著名な実践家や、浜之郷小学校、きのくに子どもの村学園といったユニークな学校について検討していきます。
 共通必読文献としては、田中耕治編著『時代を開いた教師たちⅡ』(日本標準、2009年)を指定しています。各回に2~3人の報告者を決め、テキストを手掛かりにさらに内容を深める文献調査をしてもらっています。受講者は、図書館での本の探し方やレジュメの書き方についても、徐々にマスターしていくことになります。
 テキストの執筆者たちはそれぞれ独自の視点で実践家や学校を紹介していますが、紹介されている実践家自身が書いた本を受講者が直接読んでみると、テキストでは読み取りきれなかったような工夫を発見したり、場合によってはテキストの執筆者とは異なる解釈や評価に到達できたりします。私自身も学生時代に初めて類似のゼミに参加した時には、一冊の本の裏側にどれだけ奥深い世界が広がっているのかを実感して、驚いたことを思い出します。受講者の皆さんには、そのような新しい本の読み方を学んでほしい、と思っています。

 ゼミのもう一つの魅力は、受講者同士で意見を交換できることです。現在、このゼミは文学部から2名、教育学部から1名、法学部から6名、工学部から2名の計11名が受講してくれていますが、それぞれが多彩な学校生活を送ってきた経験をもっており、理想の教育像も様々です。同じ実践をめぐって、「素晴らしい」という意見もでれば、「これでは問題だ」という反論も出されます。自分とは異なる視点との出会いは、思考を深める上で不可欠です。このゼミを通して新入生のフレッシュな視点と出会い、教育方法学の新たな展開のヒントを得たいと、私も毎回、楽しみに参加しています。

西岡加名恵准教授

教育学研究科
専門分野:カリキュラム論・評価論