コルモゴロフ「確率論の基礎概念」を読む 2015年度

 確率論の起源は17世紀にパスカルとフェルマーとの間で交わされた往復書簡に遡ると言われている.19世紀初頭のラプラスの著書において古典確率論は集大成されたが,確率論を展開する基礎に関する議論は明確でなかった.20世紀に入って無限個の確率変数を扱う研究が現れ始めた頃,コルモゴロフにより著書「確率論の基礎概念」が出版され,偶然現象を一般的に論ずる数学的基礎が明確にされた.この理論はちょうど同じ頃にルベーグにより提唱された測度と積分の理論に基づいており,さらにドゥーブにより整備されたマルチンゲールの理論と相俟って,現代確率論が今日のように解析学の他の分野とも調和して広く受け入れられ発展するための豊かな土壌をもたらしたのである.

 このゼミの目的は,コルモゴロフの著書「確率論の基礎概念」の要点を概ね高校課程の数学の素養で読みこなせるようにまとめたテキストを輪読し,その意味するところを様々な角度から理解しようと試みることである.

 現代確率論を真に理解して活用できるようにしようとするならば,大学課程の解析学の理解が必須であるが,そこまでするのはこのゼミの趣旨でない.このゼミの目的はあくまで,最小限の予備知識だけを仮定し,受講者各自が理解できるところまで最大限の努力をすることである.

 授業はセミナー形式で行われる.受講者はテキストおよび参考資料を読んでゼミに臨む.ゼミでは,受講者のうちの一人が内容を説明し,他の受講者が質問を投じて皆で討論する,という形で進む.十分な議論を行って,全員がある程度の納得をしてから先に進むことを原則とする.

 毎回のゼミに臨むにあたっては,発表の準備あるいは論点の整理のため,テキストの内容を吟味する予習が必須であり,適宜,復習も必要となる.

 数列,総和記号,集合と論理,確率について高校課程の内容をよく理解していることが必要である.高度な計算技術は必要ではない.求められるのは,数学の論理を柔軟に使いこなす能力と,確率論に対する強い興味である.

矢野 孝次

理学研究科,准教授