洛南の歴史景観と河川環境巡検 2015年度

宇治川右岸の観月橋下流にある平戸樋門にて(現在は宇治川の河床低下が著しく、取水機能は失われている。上流に架かる橋は観月橋、平成22年度時撮影)
平等院鳳凰堂の前にて(平等院の浮かぶ阿字池の水位は宇治川と連動している。また、阿字池の生態系も宇治川とよく似ている。平成22年度時撮影)
課題で作成した作品(巨椋池周辺の約100年前の旧地形図に現在の景観情報を貼付け、土地の変遷を読み解く)を囲んでの集合写真(平成22年度時撮影)

 本セミナーは防災研究所の宇治川オープンラボラトリー(京都市伏見区,中書島)を拠点として、京都南部の洛南地域を中心に歴史遺産を地形や河川環境の専門家と共に歩くことで、土地のなりたちをふまえた流域の環境防災および水辺景観のあり方について考察することを目的としています。巡検(フィールドワーク)の対象としては、1941年(昭和16年)に干拓された巨椋池の周辺低平地エリアです。京都市の北部エリアが生活圏の京大生にとっては、あまり訪れるチャンスがない地域かもしれません。しかしながら、このエリアには、豊臣秀吉が付け替えた宇治川や築かせた堤防(太閤堤)などの治水遺跡、宇治川・淀川水運の史跡(伏見港、濠川(伏見桃山城の御堀)、高瀬川)、そして、近代河川工学の文化遺産(疏水、三栖閘門、背割堤)等の河川文化に密接に関係した興味深い歴史景観が数多く見られます。これらの地形・景観を実際に見て歩き、併せて、過去の地形図や資料との対比を行うことにより、過去の景観を想像し、土地のなりたち(地形の変化・変遷)について理解を深めます。

 平成25年度に実施した本セミナーの巡検行程は以下の通りです。
○1日目(2013年9月17日)
①京阪中書島駅集合(AM10:00)→②長建寺→③平戸樋門→④ふりそでわんど→⑤蓬莱橋エリア(伏見の町、寺田屋等)→⑥出会橋エリア(角倉了以碑、高瀬川等)→⑦伏見港公園(三栖閘門資料館・展望台)→(昼食)→中川一教授(防災研究所)話題提供「淀川水系の治水」→解散
○2日目(2013年9月18日)
①京阪宇治駅集合(AM10:00)→②宇治橋→③紫式部記念碑→④平等院→⑤小倉灌漑用水→⑥塔の島→⑦宇治神社,宇治上神社→⑧橋寺放生院→⑨太閤堤跡→昼食→釜井俊孝教授(防災研究所)話題提供「天井川について」→解散
○3日目(2013年9月19日)
①京阪八幡市駅集合(AM10:00)→②木津川、木津川河床遺跡→③伊勢湾台風時最高水位記録碑→④宇治川→宇治川オープンラボラトリーに移動、昼食→課題(歴史景観写真地図(アナログGIS))作成→解散

 受講される学生さんのほとんどは、洛南地域が初めてという方が多く、このセミナーを通して、京都の歴史景観を別の観点から考えてもらう機会を提供しています。昨年(平成25年度)は台風18号による影響が残る伏見・宇治を巡検しましたが、予定していた行程で実施することができ、最終日の課題作成は楽しんで取り組んでもらえました。また、この巡検の経験から、自分の生活している土地、生まれ育った土地の成り立ちに興味をもってもらい、防災あるいは文化・景観のあり方について考えてもらう一助になればと思います。京都のマニアックな?町歩きに興味がある学生さんは是非参加ください。

中川 一、釜井 俊孝、東 良慶

[東良 慶 プロフィール]
防災研究所流域災害研究センター/助教
出身地:京都府
専門分野:環境水理学・水害地形環境