生活空間再生学ゼミナール 2007年度

■生活空間再生学の構築
 21世紀を迎えて、工業社会で破壊されてきた自然環境や地域文化を大切にし、生活の質を高めることが大きな課題として浮上している。そこでは、新しいものの「創造」とともに、既存のものの「保存・再生」を環境形成の重要な方法として位置づけることが求められている。
 こうした状況をふまえて、建築学科の6名の教員が異なる視点から「生活空間再生学」を構築する試みを紹介する(サブテーマ:京町家とまちなみの再生、京都の都市景観の創造的再生、コミュニケーションと音空間設計、安全で環境にやさしい大空間構造物の構造設計、地球環境負荷低減のための再生可能エネルギー利用、文化財建造物の修理現場を見学し、既存木造建築の保存・修復・再生の基礎的技術を学ぶ)。

■歴史都市・京都の都市景観の再生をめざして
 私(門内)のテーマは京都の景観再生である。1200年を超える歴史を有する京都は、山紫水明の豊かな自然に恵まれ、古代から現代に至る様々な時代の文化を蓄積しているが、残念なことに20世紀後半の乱開発により、町家の滅失、街並みの破壊など、都市景観は大きく変容してきた。
 京都市では、2007年3月に大幅なダウンゾーニングを含む画期的な「新景観政策」のための条例が成立したところである。景観再生が集客力を高め、優れた人材の集積をもたらし、歴史都市の再生を可能にするからである。

■現地で学ぶ京都の眺望景観
 京都市の「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」「美観風致審議会」、京都府の「景観条例検討委員会」等の委員を務めてきた経験をふまえて、景観問題と景観再生の諸方策について解説した後、今話題になっている「眺望景観の保全・再生」について学ぶ機会を設けた。
 具体的には、今出川通りと鴨川が交差する賀茂大橋から、賀茂川、北山の山並み、糺の森、比叡山などの雄大な眺望景観を望み、そこから賀茂川右岸(西岸)を北大路橋まで、「大文字」、東山や北山の山並みを楽しみながら散策し、さらに有名な円通寺まで足を伸ばして、庭園・比叡山の借景を経験してもらった。
 京都は、境内の眺め、通りの眺め、水辺の眺め、庭園からの眺め、山並みへの眺め、「しるし」への眺め、見晴らしの眺め、見下ろしの眺めなどの魅力的な眺望景観の宝庫である。学生たちは眺望景観を通して、自然の中で他者と共に生きていることを実感したはずである。

■ポケットゼミの位置づけと評価
 成績評価は、6名の教員がレポートを課し、それぞれの評価を総合して行う。深い知識や経験を、少人数の学生にわかりやすく伝えていくポケットゼミは、全国的にも大変ユニークな授業である。教員にとっても、きらきらと目を輝かすフレッシュマンとの出会いは、教育研究の原点を想起する貴重な機会なのである。

※記事は門内輝行教授担当の授業内容です。

左:高田光雄教授  右:門内輝行教授

高田光雄教授
工学研究科建築学専攻
専門分野:居住空間学

門内輝行教授
工学研究科建築学専攻
専門分野:人間生活環境学  他