地震・雷・火事・親父の傾向と対策 2007年度

[写真1]液状化の実演
[写真2]京町家の実大振動台実験
[写真3]京都大学時計台の免震改修
[写真4]奥尻島の津波被害(1993年北海道南西沖地震)
[写真5]2006 年9月17日,台風13号に伴う竜巻が延岡市街を襲い,倒壊した家屋

「地震・雷・火事・親父」の意味
 本ポケットゼミは、防災研究所の理学、土木、建築系の教員が、各1回、防災に関する講義を行うものです。ゼミのテーマである「地震・雷・火事・親父」ですが、これは怖いものの代表というイメージがあります。突然発生して多くの人命を奪う大地震は現在でも怖いもののベストテンに入るだろうし、雷も理屈抜きで怖い(特に屋外にいるとき)、火事も怖い。でも、最近の親父(father)は怖くなくなったなあ・・・などと思ったかも知れません。実は親父ですが、父親の意味ではなく、「台風」の意味だという説があります。(大山嵐「おおやまじ」の発音が変化して「おやじ」)。したがって、「地震・雷・火事・親父の傾向と対策」は、地震から台風までの災害の傾向と対策を知ろうというテーマなのです。なお、2006年度の担当教員およびテーマは以下でした。

■東南海、南海地震による揺れの予測(岩田知孝)
■地震波の伝播と地盤の震動(松波孝治)
■地盤基礎の地震被害と対策(澤田純男)
■地盤の液状化(田村修次)
■道路橋など土木構造物の地震被害と対策(高橋良和)
■建物や道路橋などの地震被害と対策(中島正愛)
■建物や道路橋などの地震被害と対策(吹田啓一郎)
■木造建物の地震被害と対策(鈴木祥之)
■日本の津波被害とその対策(田中仁史)
■台風の発生機構と台風被害に対する対策(丸山敬)
■台風の発生機構と台風被害に対する対策と防災研見学会(河井宏允)
■火災の発生原因、延焼機構とその対策(田中哮義)

いくつか、授業内容を紹介します。

<地震動>
 地震ですが、皆さんは活断層や東海地震やP波、S波ということは聞いたことがあると思いますが、地面の中の歪を開放するために岩盤がずれることにより揺れが地震波として伝わって私たちが「地震」と感じる現象です。どのように揺れるかは、岩盤がどのようにずれるか、地面の中のどのような性質のところを伝わってくるのかで決まります。強い揺れによって建物やライフラインに被害が出て、普段の社会生活ができなくなることを防ぐため、地震に強い街づくりの基本となる「揺れの予測」についての最新の研究について紹介します。

<地盤の液状化>
 「液状化」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか? 最近は、「政局の液状化!」などとも使われているようです。その本家である「砂地盤の液状化」とは、「砂がせん断強さを失って液体のようになる現象」を言います。液状化が発生すると、固いはずの地盤が液体のようになり、重いビルが沈んで傾いたり、軽いマンホールが浮き上がったりします。授業では、液状化のメカニズムを説明した後、写真1に示すようにペットボトルを用いて液状化の実演をします!

<木造建物の耐震>
 阪神・淡路大震災では、多くの木造家屋が倒壊して人命が失われました。建物の耐震性(木造建物が地震に耐えるメカニズム)は、建物の構法(建て方)によって異なります。現代的な枠組壁工法(ツーバイフォー)や在来構法の建物は壁の耐力に依存して耐震性を確保しようとするものであり、一方、伝統構法の建物は、木材と木組みの粘り強い特性を生かして建物がしなやかに変形することによって耐震性能を発揮するものです。従って、木造建物の耐震設計や耐震診断・耐震補強も構法によって違ってきます。写真2は、京町家の耐震性を調べるために、既存の京町家を移築し、また新築した京町家を大型振動台(E-defense)を用いて地震動加振実験を実施したもので、伝統木造住宅の耐震設計法や耐震補強法を検証しました。

<免震建物>
 「免震」という言葉を聞いたことがあると思います。免震構造とは、地震の揺れを免れる構造のことです。京都大学にも免震構造の建物があります。それは、京大のシンボルである「時計台」です。1925年竣工の時計台は、写真3のような免震化工事が行われました。免震構造のメカニズムや効果をゼミで紹介します。

<津波>
 写真4は、北海道西方沖地震で津波の被害を受けた奥尻島青苗地区です。津波の被害は破壊的なものです。もし、皆さんが、海岸部で大きい地震に遭遇したら、どうしますか? ①津波が見えるまで様子をみる。②自動車で避難する。③高台に走る。④ニュースをみるため自宅(木造住宅)に戻る。⑤近くの鉄筋コンクリート建物の上階に逃げる。どの選択をするかで生死が決まります。答えは、ゼミで!

<台風>
 2006年9月17日,台風13号に伴って発生した竜巻が延岡市街を多くの被害を引き起こしました(写真5)。その後、北海道の佐呂間町でも竜巻による強風被害が発生し、9人がなくなるなど各地で強風による被害が相次いでいます。本ゼミでは、強風被害の発生メカニズムや被害について説明します。

<防災研究所の見学>
 本ゼミでは、宇治キャンパスの防災研の見学を行っています。そこで風洞実験室、振動台および構造実験室などを見ることができます。運がよければ、実際の実験を見学できるかもしれません。

おわりに
「天災は忘れた頃にやってくる!」と言われています。皆さんは、大地震を遠く感じているかもしれませんが、東南海地震、南海地震が今後30年間に発生する確率は60%程度、50%程度と予測されています。宮城県沖地震は99%です。このことは、現在、学生の皆さんが、社会人として活躍している時期に日本を大地震が襲う可能性が高いことを意味します。また、最近、地球温暖化の影響のためか台風や竜巻による被害も目立ってきました。皆さんは、大学入試の際、過去問を勉強したことと思います。災害への対策も、それと同じで相手の傾向を知ったうえで適切な対策をとることが大事です。防災について知ることは、知的好奇心という面もありますが、自分や家族の命・財産を災害から守る点でも有用です。例えば、構造物の耐震性、また免震建物の原理や特性を知ることは、下宿の選択や自分の家を購入する際、大いに役立つと思います。また、津波は、その怖さを知り逃げるコツを知っているだけで、助かる可能性が大きくなります。最初にも書きましたが、本ポケットゼミは、教員が1回、防災に関する講義を行うものです。90分の授業でどこまで防災について伝えられるか分かりませんが、一期一会の気持ちでゼミに臨みたいと思います。あと、せっかく少人数で先生と接するので、どんどん質問をしてください。マスコミの報道と違うことを教えてくれるかも知れませんよ!

 本レポートを作成するにあたり、ポケットゼミの各先生から紹介文および写真をいただきました。記して感謝します。

田村 修次 (たむら しゅうじ)

所属:防災研究所・助教授、 1965年生まれ 横浜出身  
専門: 地盤地震工学
経歴: 東京工業大学卒 JR東日本、科学技術庁防災科学技術研究所、信州大学を経て京都大学防災研究所
趣味: 学生時代、オーケストラでコントラバスを弾いていました。名演奏を聴くのも好きで、朝比奈隆(京大出身!)のコンサートにもよく行きました。