金融工学 2007年度

 金融工学とは、英語のFinancial Engineeringを和訳したものです。Financial Engineeringは1970年代に米国で生じた造語であり、ファイナンスに対する工学的なアプローチを総称したものです。では、ファイナンスとは何でしょうか?
 現代の経済学では、人・物・金・情報をその考察対象としていると言われますが、学問分野としてのファイナンスは、お金にまつわる現象に関して、消費者、企業、行政当局といった個々の経済主体の視点から考察する学問と言えます。
 金融工学が世の中で認知されたきっかけは、1973年に米国で、デリバティブ(金融派生商品)の一種である金融オプションを取引するシカゴオプション取引所が開設されたのと同時期に、F.BlackとM.ScholesがBlack・Sholes式もしくはBS式と呼ばれる金融オプションの価格を求める価格式の導出に成功したことによります。この式の値は、関数電卓を用いれば簡単に求めることができて、しかも、BS式登場以来、金融オプションの実際の市場価格とこの式で求めた値との差が非常に小さかったため、BS式は関係者の間で瞬く間に流布し、現在では、証券会社の営業マンが持ち歩く電卓には、BS式が予め組み込まれているほどになっています。現在、米国では、デリバティブ市場が急成長をとげ、想定元本ベースの残高では、GNPの額をはるかに越えています。BS式の出現がなければ、ここまで規模が拡大しなかったと言えます。このことの功績から、発案者の一人であるSholes氏は、1997年にノーベル経済学賞を受賞しました。
 先に述べたデリバティブ市場の発展と相俟って、今日のように高度にグローバル化した金融市場の中で暮らす現代人にとって、他者に先んずるためには、金融工学の基礎知識は、ファイナンスのプロフェッショナルのみならず、一般の人々にとっても必要不可欠な知識と言えます。しかしながら、我が国では、ファイナンスや金融工学に従事する研究者やその理論を正しく理解する実務家の数が欧米諸国に比して圧倒的に不足し、残念ながら、その研究水準は、欧米のはるか後塵を拝しているというのが現状です。
 このポケットゼミを通じて、早期にこうした問題に開眼し、ファイナンスや金融工学に興味をもつ人々が一人でも増えてくれれば、この分野の研究に身を置く一人として、望外の喜びを禁じ得ません。みなさんの積極的な参加を期待しています。

岩城秀樹准教授

経営管理研究部
専門分野:金融工学