昆虫と人間 2007年度

■テーマと目的
 昆虫と聞くと毛嫌いする人が多いのですが、それはゴキブリ、カ、ハエなど、ついつい厭な害虫のイメージを思い浮かべてしまうからに違いありません。しかし、昆虫に対するそのような見方や感性は、あまりにも一面的・皮相的であり、それでは昆虫たちも立つ瀬がありません。人類とともに地球上でもっとも繁栄している動物である昆虫は、それゆえに生態系の中できわめて重要な役割を果たしています。このポケットゼミは、昆虫と人間とのさまざまな関わりについて学ぶことを通して、正しい昆虫観を見につけてもらうことを目的としています。その具体的なプログラムは以下のとおりです。

■エントモミメティクサイエンスについて学ぶ
 エントモミメティクサイエンスは、「昆虫から学ぶ科学」と定義されます。それは、昆虫の形態、機能、行動、および生態から学び、それを人間生活に役立てていこうとする、新しい昆虫科学です。バイオミミクリーの創始者の一人であるジャニン・ベニュス女史の「バイオミミクリー革命は、産業革命とは違って、われわれが自然界から「搾りとれる」ものではなく、「学べる」ものを重視する時代をひらく先達なのです」という言葉に、その本質が凝縮されています。自然の中で長大な進化的歴史を生き抜いてきた生物たちは皆、学ぶべき、掛け替えのない宝ものなのです。京都大学のCOE拠点「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」では、地球上で最も繁栄している動物である昆虫類の叡智から学び、それをヒントにした科学技術を、人間の生活や産業に生かすことにチャレンジしています。そのプログラムについて概説することにより、エントモミメティクサイエンスに対する理解を深めてもらいます。

■芦生研究林でのフィールド体験
 京大の芦生研究林は西日本最大級の原生的自然が残っているわが国の貴重な自然遺産です。ところが、この貴重な自然が今、崩壊の危機に瀕しているのです。増えたシカにより下層植生が食い尽くされ、その結果、昆虫を初めとして生物的多様性が失われ、土壌流亡すら起きようとしているからです。シカの個体群密度が増大した理由としては、オオカミの根絶、ハンターの減少、戦後の拡大造林、地球温暖化など、人為が介在した複合的要因が挙げられます。人間のさまざまな営為が、生物間相互作用を通して、いかに意図せぬ重大な結果を生態系に招くのかを、芦生研究林というフィールドにおいて、体験的に学習します。

■奄美大島における環境教育の視察(希望者のみ)
 昆虫COEは現在、東洋のガラパゴスとも言われる奄美大島において、龍郷町教育委員会と連携し、環境教育プロジェクトを立ち上げています。その活動実態を視察することにより、自然を保全する上での環境教育の大切さとその中で昆虫が教材として果たす役割を学びます。

藤崎憲治教授

農学研究科応用生物科学専攻
専門分野:昆虫生態学