旅と旅行記とアジア 2007年度

■なぜ、このテーマを取り上げるのか
 旅という言葉を目にし、耳にして心動かされない人はいまい。それに比べ旅行記に関心のある人はそれほど多くない。紀行文学は文学にあってはマイナーな存在である。しかも文学という枠に旅行記をはめ込むのは間違っている。
 旅行記を読むとは、その基になった旅を読み、旅する人を読み、旅する地域を読み、旅した時代を読むことである。こう考えるならば、旅行記の意義はもっと幅広いことに気づく。旅行記を読む面白さも膨らむ。旅行記や旅が科学や研究の対象になることも理解できる。ところが、このような認識は従来非常に弱い。それだけに「研究する」意義は一層大きい。しかも、このような研究は学問分野の枠組みを超えずして遂行できないし、それを超えて研究することの重要性の認識は総合人間学部の理念でもある。
 では、なぜアジアか。つづめて言えば、京都大学で学んだことを糧として世界にはばたいていく新入生にとって、日本を含むアジアへの理解と関心を深めることがいよいよ求められるからである。とりわけ19世紀のアジアは、20世紀や今日、あるいは未来のアジアの理解にさえ不可欠である。そしてそれを臨場感・実感を伴う形で理解するには良質の旅行記が何よりである。

■ゼミをどう進め、何を得るか
 なかでも、22歳から70歳までアジアを中心に旅を重ね、ベストセラーとなる旅行記を出し続けたのみならず、旅に基づく様々な活動を展開し、今なおその作品が多くの読者を得ている病弱で小柄な英国人旅行家イザベラ・バードの旅行記は、「研究する心」をもって読む時、一層興味深い。
 そこでこのゼミではその講読を、深く、多面的に、かつ、スコットランド国立図書館などにおけるバードの旅の世界に関する私の写真展の写真や、貴重な古地図なども活用しつつ行う。謎を解き明かしつつ研究する面白さを実感してもらう。きっとバードのすべてに感動し、元気を得るだろう。同時に、私の造語「ツイン・タイム・トラベル」への関心を膨らませ、将来に生かすすべも得るだろう。これは新しい旅の形であると共に、人生を豊かにするものとしての旅への最適の方法でもある。

金坂清則教授

人間・環境学研究科
専門分野:人文地理学,イザベラ・バード研究