社会保障の法と政策 2006年度

 最近,テレビや新聞などで社会保障の話題を耳にすることが多くありませんか? なんだか複雑で難しそうなイメージを持っている人も多いのでは。しかも,まだ若くて元気な皆さんには,ちょっと縁遠い存在かもしれません。でも,案外身近な存在でもあります。例えば,病院に行ったら保険証を出して診療を受けますし,小さな頃に保育所に通っていた人もいることでしょう。

 ところで,今の社会保障のしくみについて,皆さんはどれくらい知っているのでしょうか。また,社会保障と聞いて何をイメージするのでしょうか。年金? 医療? 介護,福祉,労災,失業,児童手当,生活保護,……。これらの社会保障制度は,今や私たちの日常生活にすっかり定着し,すでになくてはならない存在になっています。私たちも意識的にせよ,無意識的にせよ,社会保障の存在を前提とした生活設計をしているのではないでしょうか。そうだとすれば,今の社会保障制度を維持するにせよ,変えるにせよ,今のしくみを無視して議論はできないはず。今の社会保障制度は,いったいどのような理念に基づき,何を目的とし,どのような給付と負担の構造になっているのか。年金未納問題や少子高齢化などに関する世上の議論を耳にして,社会保障の将来について漠然とした不安を覚えている人も少なくないかもしれませんが,世上の批判や不信に棹差す前に,まずは現在の制度を理解することが必要です。

 その上で,今のしくみにどのような問題や課題があるのか,それらに対処するにはどうしたら良いかを考えましょう。近年,社会保障の分野では,毎年のように大きな改革が行われています。2004年の年金改正をはじめ,2005年の介護保険改革,障害者自立支援法の制定,生活保護における自立支援プログラム,そして2006年の医療制度改革,等々。これらの改革では,どのような背景の下,いかなる理念に基づき,何を目指して,どういった点が改められたのでしょうか。最近の議論では何かと費用を抑える観点ばかりが強調されがちですが,社会保障は何のためにあるのか,どのような価値や理念を実現するためのしくみなのかといった規範的な視点から考えてみることも重要です。

 このゼミでは,社会保障を構成する複数の部門または主要な論点の中から参加者の関心に即していくつかを選び,各テーマについて,まず1週目に現行制度の概要を理解した上で,2週目に最近の改革や将来の方向性等を検討するというスタイルで議論を進めていきます。

 素材は豊富にあります。また,答えは1つとは限りません。自分で調べ,考え,議論することがゼミの基本。皆さんの斬新な発想にも期待しています。

稲森公嘉助教授

法学研究科
専門分野:社会保障法