発生と分化-ヒトの体はどのようにしてできるか 2006年度

■生命科学や生殖技術の進歩と社会
 ヒトやその他の多くの動物の体は,たった1個の受精卵から出発し,細胞増殖によって数十万個の細胞に増え,また分化という現象によって多様な細胞が形成されます。もし,その過程で何らかの不都合が起こると,様々な発生障害となって現れることも少なくありません。こうした複雑な発生分化の現象は,以前は「神秘」とされてきましたが,近年の研究によってそのメカニズムが次第に明らかになりつつあります。その一方で,生殖を経ないで体細胞から個体を作るクローン技術が開発されたり,ヒトの生殖や胎児発生に人為的な手を加えることが技術的には可能になったことから,それに伴う様々な問題,特に倫理的な問題が生じてきており,科学者の世界に止まらず,広く社会的な関心を集めています。こうした科学の急速な進歩は,人間存在そのものに対する我々の認識も変えずにおかないでしょう。

■学生の自発的な活動を中心に
 このポケットゼミでは,理系,文系の様々な専門分野に進む学生が集まって,意見を交換し議論します。毎回テーマを決めて担当者が発表して自らの考えを述べ,それに基づいて参加者全員が,それぞれの立場から意見を述べ合います。
 とりあげたテーマの例を挙げると,「ヒトの生命はいつ始まるか」,「クローン技術と社会への影響」,「生殖補助医療の現状とその社会的・倫理的問題」,「出生前診断とその倫理的問題」などがあります。いずれも簡単に結論のでない大きな問題ですが,出席者が自発的に調べ,科学技術の現状とそれに伴う種々の問題点を考え,議論します。学生が自発的に発表して討論することに重点を置き,教員は必要に応じて議論に参加するという形をとっています。結論のでないテーマが多いのですが,教室の講義では普段あまり見られない学生一人一人の積極的な発言が討論を白熱させ,それによって参加者が互いに新たな視点に気づかされ,視野が広がることもしばしばです。生殖や発生というデリケートな問題を扱いますが,科学の進歩とそれに付随する様々な問題についての「本音」の意見も飛び出すので,立場や背景によって多様な捉え方や考えがあり得ることを学ぶのも大切な点です。
参加者の希望やその時々のホットな話題からのテーマを選んで討論を進めることにより,若者の柔らかい頭で考えて議論し,互いを刺激し合うことを楽しんでいます。

塩田浩平教授

医学研究科
形態形成機構学
専門分野:発生学、先天異常学