景色を眺め,景色について考える 2006年度

■景色は超域的世界
 景色の意味を辞書で調べると、「物の外面の様子、有様、また、外見から受ける感じ」(『日本国語大辞典』)と書かれている。
 「物の外面の様子、有様」と、「それから受ける感じ」という、二重の意味を、景色はもっている。前者は、物にかかわる世界であるから、理系的世界、後者は、情緒にかかわる世界であるから、文系的世界である。
 景色は、この二つの世界にまたがる文理融合の世界、あるいは文理を越えた超域的世界にかかわっている。

■眺めながら考えるのは、京都の景色
 私たちの目を楽しませてくれる、魅力的で、楽しい景色は、すべてが自然に生まれてきたわけではない。またその美しさは、自然に維持されているわけでもない。特に、私たちに身近な景色は、私たちの意識的な努力によって、美しくもなるし、醜くもなるのであって、すべてが天賦のもの、所与のものではない。
 京都には、由緒ある洗練された景色がたくさんある。景色の見方を学ぶのに、これほどふさわしい場所はないだろう。魅力的な景色を眺めながら、なぜ魅力的なのか、その理由を考えてみる。
 次に、なぜその魅力が持続してきたのか、その理由も考えてみる。優れた景色をどのように保護・保全していったらよいか、という現実的な課題を、現代の京都は抱えているからである。これは、全国共通の課題でもある。

■ゼミの進め方
 目に見える世界が景色だ、と考える人が多い。しかし、景色はそれほど単純ではない。山を「景色として見る」から、山の景色があるのであって、山があれば山の景色があるわけではない。
 そこで、日本人は、どんなものを景色として見てきたのか、その歴史を私が概説して、景色の見方の基本をまず知ってもらう。教室の外に出るのは、それからである。
 実際に出掛けていくのは、たとえば次のような場所で、そこを調べたことのある大学院生や教師がヒントを与えながら、そこの魅力や課題を考えてもらう。各学生は、その中から、一ヶ所を選んで、レポートにまとめて報告する。
 ◇大文字山に登って、京都盆地の景色を眺めながら、
  桓武天皇がどうしてこのような景色の地に遷都したのかを考える。
 ◇東山山麓の景勝地を歩きながら、
  良好な景色がどうして保存・継承されてきたのかを考える。
 ◇三条大橋から四条大橋までの鴨川沿いの道や、高瀬川沿いの木屋町通りを歩きながら、
  水辺の景色が持つ価値と、課題を考える。
 ◇町家や高層ビルが混在する都心を歩きながら、
  解決すべき課題とその方策について考える。

樋口忠彦教授

工学研究科
都市環境工学専攻
専門分野:景色学、生息地景色論