アラビア語紹介

Q&A

アッサラーム・アライクム――アラビア語で、「あなたの上に神の平安がありますように」という意味です。アラブ世界のみならず、イスラーム世界共通の挨拶です。
 アラビア語は、アラブ世界の公用語であると同時に、国連の公用語の一つでもあります。「アラブ世界」とは、アラビア語が母語として話されている世界のことです。しかし、一口に「アラブ世界」といっても、東はインド洋に面したアラビア半島のオマーンから、西は大西洋に臨む北アフリカのモロッコ、西サハラまで、アジアとアフリカの二大陸にまたがる実に広大な地域です。アラブ世界をアジアの上に重ねれば、東西の幅は上海からバグダードまで至ると言えば、その広大さがお分りいただけるでしょうか。アラビア語が話されている国の数は20以上。アラビア語は、英語やスペイン語、フランス語などと同じく、それ自体がグローバルな言語です。
 当然、気候風土も、歴史も政治も文化も、実にさまざまです。「アラブ」と言えば「イスラーム」というイメージが強いですが、アラブ世界にはムスリム(イスラーム教徒)のみならずキリスト教徒、ユダヤ教徒など「啓典の民」をはじめ多様な信仰が存在します。しかし、そうした多様性を貫いてあるのが、「アラビア語」という言語文化を共有する者としての、「アラブ人」というアイデンティティです。「アラブ人」とは、アラビア語という言語を自らの母語とする、あるいは、歴史的にアラビア語で培われた文化に自らの文化的アイデンティティを見出す者たちのことです。(同時に、アラブ世界には、クルド語を母語とするクルド人や、アッシリア人、アラム人、北アフリカの先住民のベルベル人…など、アラビア語を母語としないけれど、アラビア語を話す多様なエスニック・マイノリティが存在します。)

(左)(上)パレスチナ ナブルス大学の夏期講習に参加(2011年9月、法3.M.O.)
(右)(下)レバノンのパレスチナ難民キャンプで絵画指導のヴォランティアに参加(2011年8月、総人4.H.H)

 旧約聖書の言語であるヘブライ語と同じセム系言語のひとつであるアラビア語は、長母音を除いて母音は表記されません。つまり短母音の場合は子音のみで綴られるということです。そして、3つの子音の組み合わせ(これを3語根と言います)が意味を担い、名詞や形容詞などその他の品詞もこの3語根から派生しています。たとえば、k,t,b という3つの子音の組み合わせは「書く」という意味を表し、この3子音がさまざまな形に変化することで、Kitaab(キターブ=本)、 Kaatib(カーティブ=作家)、kitaaba(キターバ=書くこと)、 Maktab(マクタブ=机)、 Maktuub(マクトゥーブ=手紙)のように、「書く」ことに関連する多様な単語が作られます。これが、ヘブライ語とも共通するセム系言語であるアラビア語の最大の特色のひとつです。
 アラビア語の社会言語学的特徴として、アラブ世界の共通語であり、読み書きのことば(文語)である正則アラビア語「フスハー」と、それぞれの地域における話しことば(口語)「アーンミーヤ」が、相互補完的に使用されるという「ダイグロシア(二言語併用)」が挙げられます。私たちが授業で学習するのは、アラブ世界の共通語であるフスハーです。フスハーを修得すれば、アラブ世界のどこに行っても、新聞や小説が読め、テレビのニュースが理解でき、教育を受けた者たちと会話ができます。また、フスハーができれば、どの地域のアーンミーヤも比較的簡単に修得することができます。
 近代を支配してきた西洋中心主義的な価値観が再検討に付されている今日、イスラーム世界の人々とその文化を私たちが理解することの重要性はもはや論を俟ちません。そのイスラームを理解するうえでも、また、「イスラーム」が生きられている世界を理解するうえでも、イスラームの聖典アル=クルアーン(コーラン)の言葉であるアラビア語の基本的知識は欠かせません。
 他の言語を学ぶとは、単に文法と語彙を覚えることだけを意味するわけではありません。授業では、アラビア語という言語が「生きられている」世界について、その言語を話す人々がその地でいかなる生を紡いでいるのかについても学びます。日本では、アラブ中東イスラーム世界というと、戦争やテロ、難民など、ネガティヴな報道しかなされません。そして、それらは日々、消費され、忘れ去られる「情報」でしかありません。しかし、その地の人々の「言語」を学ぶことを通して私たちは、その地で起きている出来事が、単なる「情報」ではなく、私たちと同じ人間が生きる現実であることを知るでしょう。
 これまで慣れ親しんできたラテン文字とは異なる文字体系であり、言語系統もヨーロッパ系諸言語と異なるなど、アラビア語のハードルは決して低くはないですが、その分、挑戦し甲斐のある言語だとも言えます。ぜひ、蛮勇をふるって、挑んでください。2年後には、辞書を引きながら、国連のアラビア語ニュースが読めるようになります。

(上)レバノンのパレスチナ難民キャンプで難民の子どもたちと一緒にパレスチナのフォークダンス(2009年7月)

(下)パレスチナの朗読劇。アラビア語受講生も参加(2011年12月、京都市国際交流会館で)

Q&A

  • アラビア語は難しいですか?
    日本語のネイティヴにとっては、文法が似ている朝鮮語や、漢字を使う中国語、すでに学んでいる英語と同系統のヨーロッパ系言語の方が簡単でしょう。その意味では、アラビア語は決して容易な言語ではありません。
    第一に文字が、私たちがこれまで慣れ親しんできたローマ字でありません。また、言語系統も英語などインド・ヨーロッパ系の言語とは異なるセム系言語です。第二に、英語なら文字を覚えさえすれば辞書が引けますが、アラビア語の場合、辞書を引くには単語を「語根」に還元しないといけないので、文法が分かっていないと辞書が引けません。第三に、(フランス語などもそうですが)動詞の活用がたくさんあります。規則的なので覚えてしまえば、さほど難しくはありませんが、文法にしても動詞の活用にしても、初級段階で覚えるべき規則がたくさんあって、それをクリアーするまでが大変かもしれません。逆に言えば、それだけ挑戦しがいのある言語だと言えます。
  • アラビア文字に惹かれるのですが、1年受講すれば、アラビア文字を自分で書けるようになりますか?
    1年どころか、28文字しかありませんので、最初の1週間で覚えられます。書くだけなら、1カ月あれば、できるようになります。
  • 発音は難しいですか?
    とっても簡単です。日本語や英語にない子音がいくつかありますが、それらを発音するのは難しくありません。また、日本語にない母音を日本語のネイティヴが発音したり区別するのは難しいですが、アラビア語の場合、母音はa, i, u の3つしかないので簡単です。発音では苦労しません。
  • 母音が3つしかなくてアラブ人は困らないのですか?
    アラビア語を話すかぎりは困りませんが、彼らが日本語を学ぶときは、母語で区別しない母音を区別しなければならないので、たいへんですね。日本語ネイティヴがフランス語や朝鮮語を学ぶとき、母音が多くて手こずるのと同じです。
  • 「語根」とは何ですか?
    アラビア語はセム系言語の特徴として、3つの子音の組み合わせが「意味」を担っています。単語を構成する3つの子音のことを「語根」といいます。辞書を引く時は、単語の頭から文字を引いていくのではなく、単語を一旦、この3語根に還元して、辞書を引きます。
  • アラビア語は独学できますか?
    フランス語やドイツ語などヨーロッパ系の言語は、文法書や関連教材がたいへん充実していますので、独学も可能ですが、アラビア語は文法書もわずかですし、独学は難しいと思います。回り道のように思うかもしれませんが、授業をとって、真面目に学習すれば、3年間で、アラビア語の現代文を自分で辞書を引いて読めるだけの基本的な力を確実に身につけることができます。
  • スペイン語をとりたいと思っているんですが、でも、アラビア語にもなんとなく興味があるんですけど。
    「何となく興味がある」程度なら、アラビア語はやめておいた方が無難です。スペイン語の方がアラビア語よりいろいろな意味で容易ですので、苦労したくなければスペイン語の方がいいでしょう。
  • ロシア語とアラビア語のどちらを選択しようか迷っています。何かアドヴァイスをお願いします。
    難度に関しては、どちらも甲乙つけがたいと思います。文化に関してより惹かれる方、自分が行ってみたとき、より楽しそうな方(あるいは美味しそうな方)、という考え方もありますし、逆に、文化など、より知らない方を、未知であるがゆえに敢えて選んでみる、という考え方もあるかもしれません。
  • 単位はとり易いですか?
    予習・復習・宿題をまじめにやっている人は問題ありません。試験前の一夜漬けでは絶対にクリアーできないので、毎日コツコツと学習を積み重ねていくのが得意でない人、受験勉強から晴れて解放されて、もう勉強はうんざりという人は、とらない方が幸せです。
  • アラビア語‐日本語の辞書はあるんですか?
    あります。これまでは、アラビア語‐英語の辞書を使っていただいていましたが、今年度は、アラビア語-日本語の辞書を使います。初級で購入していただくのは、文法の教科書とこのアラビア語‐日本語の辞書だけですが、いずれも値がはりますので、履修を希望される方は受講を決断する前に値段を確認して、慎重に決めてください。
  • コーランを読めるようになるにはどれくらいかかりますか?
    「読む」だけだったら、コーランには一字一句すべて母音符号がふってありますし、コーランの朗唱もインターネットで簡単に手に入りますので、文字さえ覚えれば、すぐ読めるようになります(意味は、コーランの日本語訳で確かめましょう)。
  • 「母音符号」って何ですか?
    アラビア語は基本的に、長母音の場合しか子音のあとに母音をつけません。つまり短母音の場合は、子音のみしか綴りません。その子音がたとえば k の場合、母音がついていないので、ka なのか kiなのか ku なのか、あるいは子音だけの k なのかをはっきりさせるために、母音符号が各文字につけられます。言わば、日本語の漢字のルビ(ふりがな)のようなものです。一般の書きものには母音符号がついていませんが、コーランは神の言葉なので、一字一句、間違いがないように発音するために、すべての文字に母音符号がふってあります。
  • 母音がなくて、アラブ人はちゃんと読めるんですか?
    アラビア語の品詞はパターン化されているので、母音符号がついていなくても、単語の形を見れば、その子音に付随する母音が何なのか分かります。私たちが、初めて見た漢字でも、その部首を知っていれば、音を推測できるのと同じです。
  • アラビア語は、どこで話されているんですか?
    もともとはアラビア地方(アラビア語半島)の言語でしたが、イスラームの伝播にともない、現在では、東地中海沿岸地方(かつてのビザンツ帝国領)、北アフリカ(エジプトから大西洋岸のモロッコまで)を含む、国の数にして20カ国以上で話されています。
  • 地域によって方言とかあるんですか?
    はい、地域によって話し言葉のアラビア語はぜんぜん違います。また、いずれの言語であれ、書き言葉と話し言葉は違うものですが、アラビア語の場合は、これもぜんぜん違います。授業で学習するアラビア語は「フスハー(正則アラビア語)」と言って、文語アラビア語です。これはすべてのアラブ世界で共通です。中世のラテン語のようなものです。一方、実際に各地域で話されている口語アラビア語は、フスハーから派生し、独自に発展したもので、ラテン語から派生したフランス語やイタリア語、スペイン語が、それぞれ異なる以上に、互いに異なっています。
  • ペルシャ語と似ていますか?
    ペルシャ文字は、アラビア語文字から派生していますので、ほとんど同じですが、言語系統はまったく異なります。アラビア語はセム系ですが、ペルシャ語は英語などと同じインド・ヨーロッパ系の言語です。文法はぜんぜん違います。ただし、日本語や朝鮮語、ヴェトナム語など中国文化圏の言語に中国語起源の単語がたくさん入っているように、イスラーム文化圏であるペルシャ語(だけでなくトルコ語、ウルドゥー語等々)には、アラビア語起源の単語がたくさん入っていますので、その意味では、アラビア語を知っていると、ペルシャ語やトルコ語も学習しやすいと思います。
  • セム系の言語ってほかにどういう言語がありますか?
    ヘブライ語です。ヘブライ文字はアラビア文字とは異なりますが、文法はたいへんよく似ています。アラビア語を知っていると、ヘブライ語は独学できます。
  • 英語が得意だったのですが、言語系統が違うと、アラビア語を学習するのは難しいですか?
    文字が異なることと、動詞の活用・3語根システムは英語にないものなので、最初はちょっと苦労するかもしれませんが、統語論といって、動詞のあとに目的語が来るとか、前置詞の後に名詞が来るとか、先行詞のあとに関係節が来る、あるいは接続詞のthat に相当するもののあとに従属節が来るといった文章の構造は英語とたいへんよく似ていますので、英語の文章の読解が得意だったら、アラビア語の読解もさして難しくはないと思います。
  • 法学部の学生なのですが…?
    ひとつの外国語で16単位(平成27年度以前の卒業要件が適用される学部生は8単位)揃えないといけない学部ですね。アラビア語は中級の開講クラスが少ないので(講読と演習の週2コマのみ),外国語の卒業単位が16単位必要な学部の学生さんは,アラビア語を選んだ場合,中級では選択の余地なく,講読と演習の両方の授業を前期・後期とることになります。講読の授業は初級より格段に難しくなり,進むほどにさらに難しくなっていきます。初級のときよりはるかに自宅学習が必要です。なので,単にもの珍しいから,というような好奇心だけだと,初級はクリアーできても,中級はかなりしんどくなります。どの言語に関しても言えることですが、2回生のうちに中級の単位を両方とらないと、3回生,4回生まで卒業必要単位の修得がもつれこむこともあります。2年間,真剣に取り組むという覚悟がなければ,軽々には手を出さない方が無難です。
  • アラビア語を勉強すると何かいいことがありますか?
    世界観が変わります。アラビア語に限りませんが,言語を学ぶとは,その言語が話されている世界の文化や価値観について学ぶということです。日本では一般に馴染みの薄い,それどころか偏見をもって見られているアラブ・イスラーム世界の言語を学び,その文化や価値観について学ぶということは,これまでとは違った視点で世界を見る視座を与えてくれるでしょう。グローバル化が進む現代において,必要とされる国際人とは,そうした多極的な視座のある人のことだと思います。