磁気を使う:磁気センサから磁気浮上まで 2009年度

ホントに浮いた!(反磁性)
アー、どうしても最後の1点が離れない!

 子供の頃から、磁石を使って遊んだ経験の在る人は多いでしょう。コンパス(方位磁石)を知り、地磁気と磁極の極性N極とS極があること、同極では反発力、異極では吸引力が働く、そして、磁石から磁束が生じることを砂鉄の分布で理解した人は多いと思います。この目に見えない作用を知ることは、何かワクワクする経験ではありませんでしたか? 一つの磁石が他の磁石から明らかに力を受けた瞬間には磁石を押さえていた手が力を感じます。この磁石間の作用力は身近でマクロに観測できる物理的な力です。磁場の工学的な応用は19世紀に達成され、モータや発電機に利用されています。また、リニア新幹線では、磁場を用いて列車を非接触浮上させ、摩擦を減らし高速化が図られています。このように電気磁気学は古い学問ではなく、現代科学・工学につながる物理現象です。
 2005年から3年間「磁気浮上」を主テーマとしてポケットゼミを開講してきました。その講義では、永久磁石または電磁石、あるいは磁性材料を用いて「磁気浮上」を達成する実験にトライしてもらいました。1800年代に英国のアーンショウが、静磁場のみが存在する領域では、磁石を安定に支持することができないことを示しました。しかしながら、電流や磁場にフィードバック制御を行い、対象を磁気で間接的に支持することが試みられ、1937年に磁気浮上が達成されるのです。こういった歴史的な発見、発明を身近な永久磁石や電磁石を用いて再体験してもらうことを本ポケゼミでは重視しました。つまり、永久磁石を単に対向させて組み合わせただけでは安定な浮上が達成できないことを身を以て経験してもらいました。どうすれば磁気浮上が達成できるのか・・・、ポケットゼミの受講生は様々に工夫します。磁石を空間的に配置して浮上側の磁石が受ける力の釣り合いを図る、浮上体を回転させて磁場を平均化する、身近な素材で反磁性体を作る、ヘルムホルツコイルで能動的に磁場を変えるといった様々な工夫をしてくれました。ホームページで結果の一部を公開したところ、学外の研究者からも興味を持たれ、この講義に大きな反響を得ました。このように、ポケットゼミは、受講生だけでなく、講義する側にも驚きと発見の体験を与えてくれる貴重な講義となっています。考え工夫するという作業は、いろいろな知識を横につなげ、新入生の方々が、高校で学習したいろいろな力学や電磁気学の知識を磁場を利用するあるいは検出するという経験で、融合する様子が見ている側にも解ります。非接触で物体が浮いたという感動と達成感は最初は受動的に参加していた受講生にも大きな意識の変化を与えている様です。

引原隆士教授

工学研究科電気工学専攻
専門分野:非線形力学,パワーエレクトロニクス,MEMS