熱帯林をはかる 2009年度

ユーカリ植林地での説明
採取してきた試料を葉と枝に分け、面積や重さをはかる

■なぜこのポケゼミを始めたのか
 京都大学はかつて探検大学と呼ばれていました。海外に学術探検隊を派遣して様々な調査を行ってきた輝かしい歴史は私を魅了し、そのことが京都大学を受験する重要な動機となりました。今や海外に出かけること自体は珍しいことではなくなりましたが、かつてのような意味での学術探検、つまり不自由な環境の下で多少の苦労を伴いながら行う調査研究は今でははやらなくなったように見えます。しかし、このゼミでは敢えてそのような体験を学生諸君にしてもらおうと思いました。行き先はやはり熱帯をおいて他にありません。そして言うまでもなく、熱帯林の研究を担うフィールドワーカーがこのゼミから現れることを期待しています。

■どのようなことをしているのか
 夏までは熱帯林に関する基礎的な学習を続けていますが、ゼミの中心は夏休みに行う現地でのフィールドワークです。これまでの4年間に、ボルネオとタイにそれぞれ2回ずつ出かけました。単なる見学旅行ではなく、簡単でもいいから何がしかの調査を行い、それを記録することを続けています。
 ボルネオのキナバル山では、標高700mから3000mまでの異なる森林において、そこに生育する樹木の水分生理を調べました。標高の違いに基づく温度、水分環境の違いが樹木の耐乾燥性にも違いを生み出していると考えたのです。東北タイの熱帯季節林では、常緑と落葉の森林で枝と葉の資源配分について調べました(写真)。乾季に葉を落とす樹木と落とさない樹木とでは、厳しい時期を生き抜く戦略に違いがあります。葉の厚さと大きさおよび枝の太さには戦略の違いを反映した差があると予想し、その意味を明らかにしようとしたのです。結果はまずまず予想通りで、それらをこれまでに学会で2回発表しました。
 現地での活動ではフィールドワークのほかにもうひとつ大切だと考えていることがあります。それは、そこに住んでいる人々の暮らしを実際に自分の目で見ることです。熱帯林の減少は自然現象ではありません。生きていくために焼畑や違法伐採をせざるを得ない人々がそこにいるのです。それはどのような人たちでしょう。写真や映像で紹介される熱帯林からは、自然の驚異や豊かさだけが強調されて、しばしば人間の姿が抜け落ちています。現地の人たちが何を食べ、どのような家に住んでいるのかをぜひ見て欲しいと思っています。そうした理由から、必ず市場に出かけて各参加者が現地の食材をひとつ選び、それを食べながら日本との生活や文化の違いについて考えることにしています。

■「熱帯林をはかる」へのお誘い
 楽しくて知識が身に付く授業が世の中では評価されます。ではつまらなくても身に付く授業と、楽しいけれど身に付かない授業とではどうでしょうか。私は躊躇なく後者を選びます。好奇心旺盛な人にとって、熱帯でのフィールドワークは間違いなく楽しいはずです。ぜひお越しください。

岡田直紀准教授

農学研究科森林科学専攻
専門分野:樹木生理生態学