マキアヴェリ『君主論』ゼミナール 2012年度

「目的のためにはいかなる手段も正当化される」「安全のためには愛されるよりも恐れられる方が望ましい」「信義に篤いと思われることは重要だが、本当に信義に篤いことはむしろ有害である」等々、権謀術数を肯定し、冷酷非道を正当化する“マキアヴェリズム”の源とされる『君主論』は、16世紀初頭に活躍したフィレンツェの文人・政治家ニッコロ・マキアヴェリの手になる。彼は悪役扱いされる一方で、倫理や宗教の桎梏から政治のメカニズムの探求を解き放った近代政治学の祖とも言われ、またイタリアの国家統一を希求したことからロマン主義時代には愛国者として持ち上げられたりもした。古来とかく毀誉褒貶の激しい人物である。
現代の日本においても、企業の経営戦略やサラリーマン社会における部下の扱い方などに『君主論』の考え方を応用することを勧める、あるいは勧めるかのように見えるビジネス・マン向けの書籍が数多く出版されているという事実は、さまざまな意味で分野を問わず関心を抱く人の少なくないことを物語っている。

本ゼミにおいては、人気の高いこの書を“文献文化学”的に、つまり本格的に(とは言っても原語ではなく翻訳で)読むことを通じて、時代や文化圏を異にする人間の産み出した作品に対するアプローチのしかたを学ぶと同時に、人文学研究の面白さの一端に触れてもらう。

 幅も深みもある人文学の広がりの中には、修行にも似たある種の厳しさが求められる研究分野もあれば、これまで知らなかった世界、見たことのなかった、あるいは想像さえしなかった光景が次々と眼前に展開していく楽しさを味わうことのできる分野もある。かつて某宰相の言ったことばを借りるならば、人生いろいろ、研究もいろいろである。
本ゼミの担当者はどちらかと言えば、いや、正直に白状してしまうと、もっぱら楽しい研究が好きな人間である。もちろん、楽しめさえすれば何でもいいなどと思っているわけではないが、夢中になってやった事を人は決して忘れないし、人生を本当に豊かにしてくれるのもまたそうした経験である。

一度きりの人生、事情の許す限りとにかく楽しく生きるよう心掛けてもらいたい。そのためには夢中になれることがあればよい。マキアヴェリと彼の生きたルネサンス期のイタリア半島は、間違いなくそうした“夢中になれる”世界のひとつである。
 なお、担当教員の所属する専修の雰囲気を垣間見ることができるサイトはこちら。
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/italianista/Icon new window

天野 惠

所属:文学研究科
職名:教授
生年:1952年
出身地:岐阜市
専門分野:16世紀のイタリア文学
趣味:もともとはイタリア語が趣味だったのだが…