九鬼周造『「いき」の構造』を読む 2012年度

 このゼミナールでは、日本の代表的な哲学者の一人である九鬼周造の『「いき」の構造』をテキストにします。九鬼周造はたいへん魅力的な哲学者で、その人物や考え方にも触れたいと思っています。
 『「いき」の構造』の「序」のなかに、「生きた哲学は現実を理解し得るものでなくてはならぬ」という言葉がありますが、哲学を単なる論理としてではなく、生きた現実そのものに触れ、それを把握するものとして理解していたところに、九鬼の哲学の大きな特徴があります。『「いき」の構造』という著作も、そういう九鬼の考え方から生まれたと言えます。
 それから、日本の伝統的な文化、美意識について非常に深い理解を有していたことも、九鬼の特徴の一つです。それまで「いき(粋)」とは何かということを解明した哲学者、あるいは文学者はいませんでしたが、九鬼は、ヨーロッパに留学した際に学んだ現象学的な方法を用いて、この「いき」という現象をみごとに解明しました。それを可能にしたのは、いま言った日本の伝統的な美意識についての深い理解でした。
 九鬼は着物の模様で言うと、縞柄が、とくに縦の縞柄が「いき」だと言います。また着物の色で言うと、茶色が「いき」だと言います。なぜ縦縞や茶色が「いき」なのでしょうか。そういうことも考えてみたいと思います。
 現在、『「いき」の構造』は二種類のテキストが入手可能ですが、このゼミナールでは講談社学術文庫版を用いますので、注意してください。

藤田正勝(ふじた まさかつ)


所属,文学研究科
職名,教授
生年,1949年
専門分野,哲学・日本哲学史