農業体験実習ゼミナール  2012年度

上空からみた体験実習の準備風景
水田に入っての手による肥料の散布
背負い式の機械による肥料の散布

わが国における農業の今の姿を概観してみると、国内で作れる農作物をわざわざ輸入し、多くの農耕地を遊ばせている現状が浮かび上がってきます。この現状について考えるためには、わが国における農業が今の姿となった過程について考察することが重要であると考えられます。このような観点から、本ゼミを、8月上旬の5日間、農学研究科附属高槻農場において、午前中に講義、午後から圃場に出て農業体験実習という形式で開催します。
本ゼミの内容について、簡単に触れてみたいと思います。わが国の農業は、モンスーン・アジアという立地のもとで成立し、戦後の農地改革とその後の経済発展などにささえられ変容してきました。その中身についてみてみると、農業の発展を支えてきたのは、以下の4点、すなわち
①耐倒伏性、病虫害抵抗性などが付与された新品種の開発
②化学肥料・農薬(殺虫剤、殺菌剤および除草剤)といった農業資材の開発とその普及
③機械化による労力の低減と作業の効率化
④基盤整備事業による農耕地の整備(農道の整備、灌漑設備の充実など)
であるといえるでしょう。午前中の講義では、これらの内容について、受講生との対話形式で話を進めていきます。わが国における戦後に発展した農業の成立過程を概観することで、農業がおかれている現状とその問題点、またそれらを解決するための手がかりについて議論を深めたいと考えています。午後からの実習では、リモートセンシング、土壌の観察、トラクタの試乗、肥料および農薬の散布、米の官能検査について実習を行います。リモートセンシングでは、植物生育量測定装置(荏原製作所製)を用いてイネ群落を撮影して、イネの生育量を推定したり、気球に備え付けたデジタルカメラを使って上空から圃場の写真を撮影することで群落の被度などを推定したりします。土壌の観察では、実際に圃場を掘り、その断面を観察するとともに簡単な実験を行います。トラクタの試乗では、テストコースを試験走行したり、実際に圃場において耕耘作業を行ったりします。自動車の運転免許は必要ありません。もちろん、技術職員の方々の指導の下、安全には十分配慮の上行っています。肥料および農薬の散布では、実際に散布桶に肥料を小分けし、それらを持って圃場に入り、手で圃場内に偏りなく散布をしてもらいます。農薬の散布でも、散布機を持って圃場内に入り、偏りなく散布することになります。なお、時間があれば、様々なイネ品種について、サンプリングを行い、解体して穂のでき方を観察することもあります。穂のでき方を観察することで、肥料を散布する時期を決定することができるためです。米の官能検査では、高槻農場において収穫されたイネについて、食味試験を行います。実際に精白米を炊飯し、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価の6項目について点数をつけることで、評価を行ってもらいます。
本ゼミを受講するうえで、とくに予備知識などは必要ありません。ただ、筆記用具(午前中の講義で必要)、実際に作業のできる服装(午後からの実習で必要)ならびにちょっとした洞察力を準備してもらえば大丈夫です。限られた期間ではありますが、農業の現状と問題点を考えつつ、実際に農作業を体験することで、これからのわが国の農業のあるべき姿について考えてみてはいかがですか。

稲村達也 農学研究科 教授 井上博茂 農学研究科 助教 森塚直樹 農学研究科 助教