コミュニケーションの計算モデル 2012年度

図1:会話シーンの3次元復元(原理的には,空間内の任意の視点から,会話状況を再現できる)
図2:仮想空間内の人とロボット集団との相互行為

 人工知能研究の究極の目的の一つは,あたかも人間を相手にしているかのように流暢で複雑なコミュニケーションができる人工システム ― ロボットやコンピュータ ― を作り出すことである.そのためには,人間同士のコミュニケーションがどのようなものか,どのような情報がどのようにやり取りされ,どのような効果をもたらしているかを計算という観点から理解し,コミュニケーションの計算モデル ― コンピュータで実行可能な様式で記述されたコミュニケーションメカニズム ― として定式化する必要がある.
 本ゼミでは,人工知能研究が本格化した1956年から今日までのコミュニケーション研究の歴史を俯瞰した上で,現代のコミュニケーション研究の代表的なアプローチをいくつか取り上げて,ゼミ形式の討論と,具体的な現象を対象とする演習を通して,計算論的視点からのコミュニケーション研究を実践的に学習することを目的としている.
 本ゼミで取り上げる話題は,参加者の興味に応じて動的に選定するが,次のようなものが候補になる.第一は,E. Goffmanが焦点の定まらない集まりにおける相互行為と呼んでいるものであり,会話のように焦点の定まった集まりが開始される前に,会話を始めるか否かを決めたり,会話を始めるタイミングを調整したりするために,会話の潜在的な参加者との間合いを窺いながら,主として非言語的なシグナルを使って行うやり取りである.第二は,焦点の定まった集まりにおける相互行為であり,二人またはそれ以上の参加者が声や身振りを交えて行う,情報交換,意思決定,あるいは交渉といった社会的なやり取りである.第三は,離れた時空間にいる人々がコンピュータやロボットなどの情報通信技術に助けられながら行うコミュニケーションである.第四は,コミュニケーションに参加する人たちが行っている情報処理プロセスとそれを支える情報処理メカニズムとその実装技術である.第五は,文化や個性などコミュニケーションの背景となる要因である.
 演習では,視聴覚的あるいは生理的な計測によるデータ採取(図1),あるいは,仮想空間内の人間とロボット集団の相互行為の実験(図2)などを通して現象のデータに基づく理解を試みることも視野に入れたい.

西田 豊明

大学院情報学研究科 教授 (nishida@i.kyoto-u.ac.jp) 研究室ホームページ:http://www.ii.ist.i.kyoto-u.ac.jp/Icon new window