再生医療の研究再生医療について調べてみよう 2012年度

ポケット・ゼミの授業紹介
 近年、「再生医療」という言葉の下で各種の基礎研究や新しい疾患治療の試みが紹介されることが多く、ともするとあらゆる難病が「再生医療」によって治療できるかのような必ずしも正しくない期待を抱かせているのではないかと危惧される。「再生医療」の内容は多岐にわたり、これを明確に定義することは容易でない。本セミナーでは、再生医療の基礎となる再生科学、再生医学とも称すべき基礎的な知見について学習し、現在行われている、または行われようとしている「再生医療」的な治療法について調査・研究することを通して、「再生医療」に対する理解を深めることを目的とする。
 再生医療を単純明快に定義することは容易でない。というのも、この用語が高々10年ほど前から使われだした新しい用語であるため、その意味するところも未だ安定していないということが関係している。
 医中誌に収載されている出版物でこの言葉を含む最初の例は、2003年2月発行の日本医師会雑誌(129巻3号)の特集[再生医療の現状と将来展望]である。一方、英語でregenerative medicineという言い方があるが、PubMedで検索すると、この言葉を使った論文題名として最も早いものは、蛋白質核酸酵素・2000年9月増刊号『再生医学と生命科学---生殖工学・幹細胞工学・組織工学』(編集:浅島誠・岩田博夫・上田実・中辻憲夫、発行:共立出版)の中の日本語論文の英語標記(1,2)である。日本再生医療学会の設立が2001年5月であるから、「再生医療」という言葉は20世紀から21世紀に入る頃に作り出され、「再生医療」・「再生医学」に対応する和製英語として”regenerative medicine”という用語が使われるようになったのではないかと推測される。という訳で、再生医療あるいはregenerative medicineが意味するところは未だ流動的ではあるが、regenerative medicineという英語は立派に定着しており、一例としては”Regenerative medicine is the process of creating living, functional tissues to repair or replace tissue or organ function lost due to age, disease, damage, or congenital defects (3).”(敢えて和訳すれば「再生医療とは、加齢・疾病・損傷または先天的欠損によって失われた組織又は臓器の機能を修復あるいは置換するための生きて機能する組織を創造するプロセス」)という定義も与えられている。
 再生医療、regenerative medicine、あるいはそれに類似する治療法は、実際には、薬剤、細胞、遺伝子治療、バイオ人工臓器など、非常に多様な方法で行われようとしている。このポケットゼミでは、このような治療法の基礎研究あるいは臨床研究の実態を調査し、その利点や問題点を吟味して、今後の発展に資する知識や判断力を養おうと目論んでいる。京都大学の教育理念にある「対話を根幹として自学自習を促し」てゆくことに強く反応してもらえる学生を期待している。
1. Sumikura k. [Patents and bioethics: the problems posed by regenerative medicine]. Tanpakushitsu Kakusan Koso. 45(13 Suppl): 2336-2341, 2000.
2. Takayanagi K, Kumagai N. [Regenerative medicine of skin]. Tanpakushitsu Kakusan Koso. 45(13 Suppl): 2283-2288, 2000.
3. National Institute of Health. Fact sheet: regenerative medicine. 2006.
http://www.nih.gov/about/researchresultsforthepublic/Regen.pdfIcon new window

角 昭一郎

所属 再生医科学研究所
  器官形成応用分野
職名 准教授
生年 1955年生
出身地 岡山県美作市
専門分野 糖尿病等代謝・内分泌疾患の再生医療、消化器(特に膵臓)外科
趣味等 ヴァイオリン演奏、京都大学交響楽団OB