海産無脊椎動物-分類群と形の多様性 2012年度

実験所近くの磯での採集
採集物の同定作業
走査型電子顕微鏡による試料観察

 動物分類学では、動物(正確には多細胞動物)をまず35から40の「門」という大きなグループに仲間分けをする。例えば我々ヒトは、分類学的にはHomo sapiens という一つの種であり、脊索動物「門」の一員として分類される。それでは生命発祥の地である「海」にどれだけの動物門が生息しているかというと、研究者によって多少意見が異なるが、40近くある動物門のうち、これまで海で1種も見つかっていないのは1つないし2つの門だけであり、逆に約半数の動物門は海でしか見つかっていない。これこそが本ポケゼミで言うところの「分類群の多様性」であり、採集・形態観察・同定(種名を決めること)の各作業を通して分類群の、また「形の多様性」を実感していただく、というのがこのポケゼミの大まかな目的である。ちなみにここで扱う「無脊椎動物」とは、背骨を持った「脊椎動物」(海産のものでは例えば魚やウミガメ)を除く全動物を指し、脊椎動物が脊索動物門の一グループに過ぎないことから、無脊椎動物の構成員は全動物門に渡ることになる。

 本ポケゼミは、京都での2回の講義と、和歌山県白浜町にある瀬戸臨海実験所で行う四泊五日の実習とで構成される。1回目の講義はオリエンテーション、2回目の講義は動物の多様性についての概説の内容で行う。実習は例年夏季休業期間中に開催し、磯採集・洗い出し採集を中心に、瀬戸臨海実験所が所有する水族館の見学や、走査型電子顕微鏡による試料観察なども行いながら、海産無脊椎動物の多様性について学んでいく。ただし時間的制約や安全面の配慮、また指導教員の能力から、採集はいわゆる潮間帯での磯採集に限り、シュノーケリング・スキューバ等の潜水採集や船舶を利用した採集は、今のところ行っていない。

 実習中は実験所の宿泊棟に寝泊まりし、文字通り寝食を共にする事となるが、学部や出自が異なる受講生達も、様々な出来事に対し協力して事に当たるうちに、段々打ち解けて仲良くなっている様子である。また夏季休業中という事で、例年他大学の臨海実習と日程が重なり(2011年度は大阪大学)、実験所所属の院生やポスドク達だけでなく、他大学実習の参加学生や引率教員の人達とも様々な形で有意義な交流が図られている。

宮崎 勝己

フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所・講師。
専門は海産無脊椎動物学、特に謎の節足動物「ウミグモ」の生物学。
1964年東京オリンピックの最中に、佐賀県唐津市で生を受ける。小中高校時代を暮らした伊万里市がカブトガニの産卵地だったことが、この道に入るきっかけと言えばきっかけだが、実際は色々と紆余曲折を経ている。海の近くに住み海の生物を研究しているのに、泳ぎが苦手でしかも生魚アレルギーなので、人生の半分は損していると周りからは言われるが、本人は意に介していない。