放射線ゼミナール 2012年度

演習1:GM計数管
演習2:高純度Ge半導体検出器
演習3:「霧箱」実習風景
演習3:α線の飛跡

 東日本大震災において原子力発電所事故を経験して以来、多くの市民が以前よりも増して放射線について良く知りたいと思うようになった。これを受けてか、今やメディアやネットでは、その質の高低や是非を問わず、無数の放射線に関する情報が散見される。このような状況下では、目に見えない放射線を何か得体のしれないものとしてただ恐怖の対象とする者がいたとしても、これは当然のことである。しかし、世の中に存在する様々な危険物質の内、歴史的に放射線ほど注意深く広範囲に研究調査されてきた物質は他に類を見ないという事実を決して見逃してはならない。そもそも我々日本国民は、過去にも悲惨な被爆体験をしており、そこから学び取った知識の蓄積がある。これを今後に生かさぬ手はない。
もちろん大量の放射線は、人間にとって極めて危険である。しかしその一方で、放射線はこれまで様々な科学分野や産業技術の進展、医療の向上などにおいて多大な貢献をしてきたことも事実である。そして今や、放射線は人々の気づかぬうちに社会に欠かせないものとなっている。すなわち、放射線は「Risk」があるという負の側面を有すると同時に、人類に多大な「Benefit」をもたらすという正の側面も併せ持っているのである。放射線について知るとともに、本講義をそのRiskとBenefitについても考える契機として欲しい。

そもそも放射線とは何だろう。五感に感じぬものをどうやって測定するのだろう。どうして危険なのだろう。あるいは、どのように人類の役に立っているのだろう。このような疑問を持つ諸君のために、本ゼミは開催される。
 放射線のプロである放射性同位元素総合センターの教員が、それぞれの専門分野を生かしリレー方式で講義を展開する。様々な角度から基礎知識を積み上げながら学習し、あるいは演習を通じて実際に測定器を使用して放射線を体感し、放射線あるいは放射性物質についての理解を深めて行って欲しい。

【授業計画と内容】
以下の課題について、1課題あたり1~2週の授業を行う予定である。
●オリエンテーション
●放射線をとらえるための予備的学習を行なう
1.放射線の起源
2.物理的、化学的性質
3.人体への影響
●放射線検出技術の概要説明と演習
1.放射線検出器の原理
2.演習1:GM計数管で身の回りの放射線をとらえる
3.演習2:高分解能γ線スペクトロスコピー
4.演習3:ラドンとその娘たちをとらえる
●放射線利用の利用について
1.放射線を利用した学術研究の紹介
2.核医学を中心とした医療への応用
●放射線に関連する総合討論およびまとめ

尚、本講義の受講に際し、理系・文系のバックグラウンドは問わない。

環境安全保健機構 放射性同位元素総合センター

教 授 川本 卓男(かわもと たくお)
     専門:生物化学
准教授 戸崎 充男(とさき みつお)
     専門:原子核・放射線物理学
助 教 角山 雄一(つのやま ゆういち)
     専門:植物生理学・分子生物学
助 教 大澤 大輔(おおさわ だいすけ)
     専門:原子・分子物理学、放射線物理学
助 教 木村 寛之(きむら ひろゆき)
     専門:分子イメージング学・放射性医薬品学