中世都市の法制史 2013年度

 近代社会は、公権力による法や裁判によって、秩序が保たれている。しかし、前近代社会においては、統一的な公権力・法・裁判のいずれもが不十分なまま、直面する諸問題に対し、臨機応変に法や秩序が模索されていた。

 本ゼミでは、日本の前近代社会の秩序形成について、近代の法や裁判のあり方と比較して評価するのではなく、前近代社会に強く浸透していた、宗教・文化・慣習などの役割に焦点をあて、そこに共存する合理性と非合理性・そこから生まれる法や秩序を通して、「異文化としての歴史」を学ぶ視点を涵養する。

 そして、前近代社会で生まれた多様な法や秩序を、ありのままにみてゆくことによって、現代社会において、さまざまな制度設計や改革の背景として語られる、一般的な「日本の伝統」「日本人の法意識」といったイメージを見直し、相対化することができるだろう。それは歴史を学ぶ面白さの一つである。

 ゼミでは、下記にあげたテーマに沿って、近年刊行された最新の研究成果を踏まえ、議論を行う。参加者には、文献リストから、各自1冊を選び、興味をもった点についてレポートしていただき、また相互に積極的に議論していただきたい。1冊あたり1~2週のゼミを宛てる。

テーマ1 中世社会の秩序
 清水克行『喧嘩両成敗の誕生』講談社新書メチエ、2006
 笠松宏至『徳政令』岩波新書、1983
 勝俣鎮夫『一揆』岩波新書、1982
 網野善彦『日本中世都市の世界』ちくま学芸文庫、2001

テーマ2 中世とはどんな時代か
 清水克行『大飢饉、室町社会を襲う!』吉川弘文館・歴史文化ライブラリー、2008
 桜井英治『室町人の精神』講談社学術文庫、2009
 瀬田勝哉『洛中洛外の群像』平凡社ライブラリー、2009
 今谷明『天文法華一揆』洋泉社新書MC、2009

テーマ3 中世から近世へ、そして近代へ
 清水克行『日本神判史』中公新書、2010
 新田一郎『日本中世に国家はあったか』山川出版社日本史リブレット、2004

高谷 知佳

法学研究科・准教授
日本法制史専攻
1980年奈良県生まれ