トリ卵から知る発生のしくみ 2013年度

高橋教授
田所助教

<発生とは>
 我々の体は約60兆個の細胞たちによって構成されています。これらの細胞たちがそれぞれ情報伝達(神経)・光感知(視神経)・濾過(腎臓や肝臓など)など挙げたら切りのないほど多様な機能分担を行い、さらに手や足をはじめとする機能的な形態を作ることにより、個体が作り上げられます。これらの多様な細胞たちは、全てたった一つの受精卵が幾度となく細胞分裂を繰り返し生み出されます。そして彼らは互いにコミュニケーションをとりつつ、移動したり塊まったり変形したりしながら集団として様々な形態を作り出すのです。この受精卵から個体ができるまでの過程を「胚発生」と呼び、発生中の胎児のことを「胚」と呼びます。胚発生はいろいろな生命現象および化学反応が絡み合った極めて複雑な過程です。いうまでもなく人類の科学技術を集結させても、現時点で人工的に生命体を作り出すことはできません。しかしながら、全ての生命たちは、太古の昔から当たり前にやってきたように、寸分違わず個体を作り上げてゆきます。この背景には緻密かつ巧妙な設計図(分子メカニズム)が存在しているのです。この胚発生メカニズムを理解することは基礎生物学的に意義深いだけでなく、再生医療の基盤作りとしても非常に重要です。そして「胚」の美しさには、理屈ぬきに子供から大人まで万人の心を打つ魅力があるのです。

<授業の目的と内容>
・目的
 みなさんが日々目にしているニワトリ卵を用いて、講義と実習を組み合わせて体作りの仕組みを紹介してゆきます。好奇心旺盛で未知数な学生諸君に、生物学を通して学問の面白さや目的を達成するための手法、そして科学的な思考とプレゼンテーションの極意を学んで頂きたいと思います。トリの卵を孵卵器に入れ温めると、たった2日間で頭ができ心臓がドクドクと鼓動し、みるみるうちに形態が作られてゆきます。この胚発生のドラマは一見の価値ありです。

・計画と内容
1.教員、受講者の自己紹介。発生中のトリ卵を観察することの意義について。
2.脊椎動物の発生を観察するにあたり、あらかじめ知っておくと便利な知識を紹介。
3.卵の中で発生するトリ胚を観察する。
4.トリ胚をシャーレに取り出して、胚の内部を観察する。
5.トリ胚を使った実験手法のあらましを体得する。
6.トリ胚を生きたまま操作し、その結果何がおこるか観察する。
7.トリ胚の骨標本を作製し、骨格の全体像を理解する。
8.観察結果発表会

3~6のステップは、実際に各自が手を動かしながら習得するため、8週分の授業に相当する。7の骨標本作りの課題にあたり3週分の授業をする。これらの授業は、学生のスケジュールを調整しながら柔軟に進める。実習内容に関しても、学生の興味に応じて柔軟に対応し、教える側と教わる側の双方が協力して実りある講義を作ってゆきます。担当教員である高橋淑子(教授)と田所竜介(助教)が協力して進める。実際の顕微鏡観察では、研究室の大学院生などからのアドバイスも受ける。

*まじめに楽しもうという意気込みのある方であれば、受講するにあたり予備知識や技能の有無そして専攻分野などは問いません。

担当教員

高橋淑子
理学研究科生物科学専攻動物学系動物発生 教授
専門分野:発生生物学

田所竜介
理学研究科生物科学専攻動物学系動物発生 助教
専門分野:発生生物学