薬と医療 2013年度

薬学は、「くすり」に関する総合科学です。基本となる学問領域は、物理、化学、生物と多岐にわたりますが、これら領域の知識と経験を集結、統合して創られた医薬品が医療現場で使われています。本ポケットゼミでは、実際の医療現場で使われるくすりについて、自らがそれを開発する立場から、また自分が患者として使う立場から考えることで薬学という総合科学の一端に触れてほしいと考えています。授業は、SGD(small group discussion)という3~5人の少人数のグループを単位にした演習形式で進めます。教員を交えながら学生同士で意見交換をしながらくすりに関する理解を深めてもらいます。担当の教員は、薬剤学、薬理学、ゲノム創薬の専門家で各専門の立場から、適宜アドバイスはしますが、あくまでも学生が中心となります。自分自身が調べた内容や自分の意見を出し合って学生同士でコミュニケーションする形でSDGを進めます。授業の最後には、SGDで話し合った内容をまとめてプレゼンテーションしてもらう機会も設けています。以下に、取り上げている話題について紹介します。

(1)医薬品の安全性と医療:KJ法による問題点抽出と論点整理
 くすりは、病気を治に役立つ作用を持っていますが、同時に体にとって良くない副作用を示すことがあります。このことを念頭に置いてくすりを使用しないと安全な治療は行えません。こうしたくすりの安全性に関する問題点について、KJ法と呼ばれる学習手法を用いて考え、お互いに意見を交換すると共に問題点を整理します。平成23年度の授業では、東日本大震災の直後だったので、「我が国における災害医療の問題点」というテーマでSGDを行いました。医薬品の不足、医療の質の低下、心のケアなどを論点に意見交換と発表会が行われました。
(2)医薬品開発における製剤化の目的とその効果
 くすりは使いやすいように、錠剤やカプセル剤など医薬品「製剤」という形に仕上げられています。普段何気なく飲んでいるくすりにも実はいろいろと工夫が施されています。薬学部には模擬薬局がありますが、そこで本物のくすりを使って、代表的な製剤の表面や内部を観察して、製剤化の目的や技術について学んでもらいます。意見交換を行い、皆さんが考えた医薬品製剤の有効性、投与法、製剤化の工夫について発表してもらいます。
(3)遺伝子治療・細胞療法
現在、普通の医薬品だけではなく、遺伝子や細胞といったこれまでは考えられなかったものをくすりとして利用しようという挑戦的な研究が活発に進められています。従来法では治療が困難であったさまざまな難治性疾病の新しい戦略として期待されています。これら近未来の実現が期待されている治療法の基本的な考え方、方法、実例、問題点についてSGDで討論し、皆さんが考えた成果を発表してもらいます。

コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力は、皆さんがこの後、学部や大学院に進めばもちろんのこと、社会に出てからもとても重要です。このポケットゼミは、1回生でこれらの能力を磨くとてもいい機会でもあります。是非、参加してみてください。

高倉 喜信

所属:薬学研究科
職名:教授
出身地:大阪府
専門分野:薬物動態学、ドラッグデリバリーシステム