微細藻類の光合成とバイオテクノロジー 2013年度

<ゼミの目的>
 光合成生物(Photosynthetic organism)が作り出す有機物は、太陽の光エネルギーを利用して二酸化炭素などの無機物から生産され、いろんな分野で利用されています。農業ではデンプンや油脂・タンパク質が食糧源として、あるいは樹木は建材等に利用されています。また、工業では石炭や石油がエネルギー源や工業原料として利用されます。つまり、我々の命と生活は、有機物を作り出す光合成によって成り立っているといえるでしょう。この光合成を理解するために、微細藻類(葉緑体の祖先であるシアノバクテリアやクロレラなどの緑藻)が研究に利用されてきました。例えばノーベル化学賞を受賞したカルビンは、放射性標識した重炭酸イオンをクロレラに与え、炭酸固定経路を解明しました。また近年、バイオ燃料として利用可能な油脂や炭化水素を生産する微細藻が話題になっています。
 本ゼミでは、藻類のモデル生物である緑藻クラミドモナス(図を参照)を使って、バイオテクノロジーの基礎である分子細胞生物学・遺伝子工学・ゲノム科学に触れてもらうことを主眼においています。光合成や生殖に関連した実験から、微細藻の生き様を理解するとともに、学術論文や遺伝子の情報を入手するために必要となるデータベースを用いた情報検索や情報処理についても体験して学びます。

<授業計画と内容>
 次の各項目について、講義と実習をセットにして学習を進めます。実験を実際におこなって、その結果を科学的に理解することの大切さを体得してもらいます。
1. 微細藻を光学顕微鏡で観察し、遊泳する動物的な側面と、光合成を行う植物的な側面を理解する。さらに蛍光顕微鏡で、DNAやクロロフィルの存在場所を観察し、細胞の構造と機能を理解する。
2. 精子と卵に相当する雌雄配偶子が凝集・接合する様子を観察し、有性生殖過程を理解する。
3. PCRを用いた遺伝子診断法により、雌雄の遺伝子型を判定するとともに、生殖における表現型との関連を理解する。あわせて交配育種の原理を理解する。
4. 細胞の酸素発生活性やCO2ガス交換活性から、光エネルギーを化学エネルギーに変換する光合成について理解を深める。
5. 培養環境条件の違いや遺伝子の変異によって、光合成反応生成物の種類や量が変化することを理解する。
6. 無菌操作を通して、バイオテクノロジーにおける純粋培養の重要性を理解する。
7. 遺伝子導入により細胞の生存能力が変化する例を観察し、生物の諸性質が遺伝子の獲得により変化することを理解する。
8. インターネット上のデータベースを利用して遺伝子情報や文献情報を調べ、最新のバイオテクノロジーについて理解を深める。

<受講を希望する人へ>
 これまで生物を学んでいなかった人でも、先端的なバイオテクノロジーに興味があれば、実験の基礎から体験してもらえるよう工夫しています。成績は、講義内容に関するレポートを提出してもらい評価します。出席重視です。質問があれば、教員宛(fukuzawa@lif.kyoto-u.ac.jp)にメールで連絡して下さい。なお、本ゼミは実験を含むので、白衣とスリッパを各自で持参して下さい。参考図書は講義中に紹介します。

福澤 秀哉

生命科学研究科 教授
専門分野:分子細胞生物学、ゲノム科学、光合成
京大広報N671の「洛書」に記事あり(下記)。http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/issue/kouhou/documents/2011/671.pdfIcon new window
研究室ホームページ:
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/molecule/Icon new window
生命科学研究科での紹介ページ:
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/j/modules/education/content0039.htmlIcon new window
キーワード:分子遺伝学 / 遺伝子工学 / 光合成 / 二酸化炭素 / バイオインフォーマティクス / 微細藻類