地域研究への招待-映画で読み解くアジア 2014年度

 このポケゼミは、実際に映画を見ながら、アジア映画のいろいろな愉しみ方を考えることが目的です。そして、それを通じてアジア社会についてもっとよく知ることがもう1つの目的です。
 外国の映画を見るとその国や人々のことがわかった気になりますが、よく考えてみると、映画を通じて社会のことを知るのはそれほど単純なことではありません。映画は、まず脚本が作られ、それに従って役者たちが演じているフィクションなので、映画の内容をそのまま現実だと鵜呑みにすることはできません。映画の中では殺人事件があったり戦争が起こったり大災害が発生したり幽霊や超能力者や宇宙人が出てきたりしますが、観客はそれは作り話だということを承知で映画を愉しんでいます。
 ただし、映画が作り話だとしても、製作者たちはどうしてそのような映画を作ろうと思ったのか、あるいは、どうしてその映画が大ヒットになったのかを考えることは、その映画が作られた社会や時代について知る手がかりになります。大ヒットしなかった場合でも、どうしてヒットしなかったのかを考えてみてもいいでしょうし、あるいは、国内ではあまりヒットしなかったけれど海外で高く評価されている映画について、その理由を考えてみてもいいかもしれません。
 そのためには、映画の舞台である社会について一通りの知識を持っていることが必要です。映画の中に何気なく出てくるシーンや台詞は、背景を知らないと見逃したり聞き逃したりしてしまうかもしれませんが、背景がわかるとそこに込められた意味が浮かび上がってくることもあります。背景を知った上で映画を見ると、何も背景を知らずに筋だけ追っていたときとは違う愉しみ方も出てくるし、もしかしたら、製作者の意図を超えて意味を見つけて愉しむこともできるかもしれません。
 このポケゼミでは、アジア映画のうち、イスラム、中華、インド、西洋などの世界各地の文化が集まる混成民族社会マレーシアの映画を主に扱いますが、受講者の関心によってはシンガポールやインドネシアといった近隣の東南アジア諸国を対象に含めることもあります。また、できれば長編作品を見たいと思いますが、ポケゼミの時間に収まらないため、短編作品を中心に作品を選ぶことになると思います。受講者は、はじめにいくつかの候補から担当作品を選んで、グループでその作品の内容や背景を調べて、どう愉しんだかを発表してもらいます。
 映画は、いったん作られて公開されてしまえば、それをどう見てどう愉しもうとも観客の勝手です。カメラワークなどの撮影技術ではなく、映画にどのような物語が込められているかという観点から、受講生のみなさんと一緒に映画を愉しみたいと思います。

山本 博之