人間の心の誕生:発達科学の最前線 2014年度

京大赤ちゃんラボで行われている社会的認知発達研究
京大附属病院小児科NICUとの協働による早産児を対象とした情動・認知発達研究

    -人間らしい心のはたらきが成り立つ道すじをたどる-

 私は、小学生のころから宇宙という果てしない存在(無限)や、生命の始まりと終わり(有限)に強い関心がありました。その先には、「自分という存在は、どこからやってきたのか、どこへ向かうのか」という難問がありました。この問いに自分なりの答えを見出そうとして行きついた学問領域、それが「発達科学(Developmental Science)」でした。
 手足などの人間の形態的な特徴と同様、目には見えない人間の心のはたらきも、進化的淘汰の産物です。人間らしい心とはどのようなものか(what)を知るには、それが、「いつ(when)・どのように(how)・なぜ(why)生まれてくるのか」を明らかにすることが必要です。私たちは、人間の心が発達する道すじとそれを支える生物学的基盤を、個を取り巻く他者、社会、文化、環境という側面から明らかにしようとしています。人間の心の発達を支える要因を、行動観察や実験を通して科学的にとらえようとする試みです。
心のはたらきを比較する 人間らしい心の側面を明らかにするため、ヒトとヒト以外の霊長類の認知や行動を比較しています。統制のとれた実験室での実証的研究、それぞれの動物種が本来生きてきた環境での野外観察(フィールドワーク)によって、彼らの認知や行動特性を調べます。それにより、ヒトの心のはたらきの独自な部分と他の種と共通する部分を客観的に示すことができます。こうした基礎研究の積み重ねにより、ヒトらしい心がもつ意味、ヒトらしい心が成り立つために必要な要因を議論することが可能となります。
 ヒトらしい心が育まれる条件 ヒトは出後直後から、あるいはお腹の中にいるときからすでに他者とのコミュニケーションを求める存在であることをご存知ですか。生まれて数時間しかたたない赤ちゃんが、外界刺激の中から他者を自動的に選び取り、その表情を模倣します。さらに時間をさかのぼってみると、胎内では、お母さんの声に選択的に耳を傾け、それに応答するかのように口を動かしているのです。ヒトらしい心が成立していくプロセスにおいて必要な環境とはどのようなものでしょうか。それを支える社会―文化的要因とは何なのでしょうか。その答えを求めて、私たちは、病院や保育所、赤ちゃんラボでの行動観察や実験を日々積み重ねています。
 私たちは、生物としてのヒトの心の発達の基盤となる環境、社会、教育的側面を検証し、適切な養育環境、発達支援の基本的指針を科学的根拠にもとづき提案することを目指しています。詳しくは、明和研究室HPをご覧ください。
http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/myowa/index.htmlIcon new window

明和 政子

研究キーワード
発達・進化・胎児・早産児・新生児・乳児・チンパンジー・霊長類・認知と情動・自己-他者意識・模倣・母子関係・共感性・遊び・学習・教育…