野生動物問題の現場を知る 2014年度

 生物多様性の保全はこれからの社会にとって大きな課題である。生物多様性の保全と聞くと、希少生物や貴重な自然環境の保全のことを最初に思うことだろう。
 同時に、それは何か自分たちとは離れた遠いところで行われていることのように受け取られがちである。しかし、人間による長い自然利用の歴史の中で、人間が関わることで保全されている生物も数多く存在する。
 このように人間による利用は、自然を一方的に損なっているだけではない。同じように生物多様性も人間にとって常に良いことばかりではない。
 特定の生物(生産物)を育成する農林業にとって、生物多様性により不都合なことが生じる場合もある。その代表的な例として、シカやイノシシなどの大型哺乳類が上げられる。これらの動物たちは農山村で様々な被害をもたらし、農山村社会に大きな負担を与えているだけでなく、自然生態系おも脅かすほどになっている(写真)。
 このような事態を招いた背景には、狩猟という人間の古来からの自然とのつきあい方の変化が関係している。かつては山の幸として利用されてきたシカが利用されなくなり、ハンターの減少とともに急激に個体数が増加し、捕獲してもそれ以上に増加する状況が続いている(図1)。そういう厳しい農山村の状況の中で、被害を防ぎ、シカを捕獲しながら、農山村で暮らしている人たちがいる。
 このゼミでは、そういう人たちと防除作業をしたり意見交換をすることにより、現代農山村における野生動物問題の実態について垣間見る。さらに、京都大学芦生研究林にて、シカが天然林に及ぼす影響について知り、シカのいる生態系とはどんなであるのかについて考える。これらの実習を通して、農山村地域におけるこれからの自然と人間との関わりを野生動物に関係する文化、野生動物文化の視点から捉え、新しい農山村社会の在り方を探る。
 8月に京都で、3泊4日程度の夏季集中講義で行う。必要装備ならびに宿泊等の実習経費は自己負担となる。
1~2日目:農家民宿におけるグリーンツーリズムと野生動物被害対応
2~3日目:農家民宿における自然学習と野生動物利用の在り方
3~4日目:天然林における野生動物被害の実態とその対策

高柳 敦