ゼミナール「活動する宇宙」 2005年度

飛騨天文台合宿の際(2004年8月)。新設の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)が後ろに見える。左端が嶺重教授,右から2人目が柴田教授。

■ポケゼミのあらまし
 本ポケゼミでは,テキスト「活動する宇宙」(裳華房,1997年)を半年かけて輪講し,夏休みに飛騨天文台で2泊3日の合宿ゼミを行なっている。テキスト「活動する宇宙」は,20世紀後半に明らかになった宇宙・天体の激しい活動現象を身近な太陽から100億光年先のクェーサーや宇宙ジェットに至るまで,丁寧に解説した本であり,基礎から始めて学問の最先端まで触れることができる。ゼミの定員は8名。ゼミでは毎週,1人の学生が1章(20ページくらい)を担当し,内容をレジメにまとめ,1時間ほどかけて解説する。

■テキストは難しい
 元々このテキストは学部の3,4回生や大学院生向けに書かれているので,大学に入りたての1回生には,かなり難しい。しかし,それを承知でテキストに採用したのには理由がある。京大に入る学生がいかに優秀といえども,高校までは手取り足取りの教育しか受けていない。答えのわかっていない問題や予備知識が十分与えられていない教科書や授業は受けたことがない。しかし,大学とはそもそも答えがわかっていない問題を研究するところなのだ。講義や実習も予備知識が親切に与えられるとは限らない。そのような状況でいかに答えを見出し,問題を解決するか,それを学ぶのが大学である。高校や予備校のように教材もヒントもすべて与えられた上での学習ではなしに,右も左もわからない状況の中で,手探りで教材やヒントを自分で探しながら勉強することが要求される。それを大学に入りたての1回生から学んでもらいたい。そういう思いから,1回生には難しいテキストを選んだ。もちろん,担当教員がいくらでも解説や補足ができるゼミ形式ならではの選択である。また,このテキストは担当教員がテキストの編者や著者に加わっているので,内容は良くわかっており,学問の最先端を生き生きと伝えるのにもっともふさわしい本と言える。実際,ゼミでは途中から担当教員によるスライドショーが始まったり,また,二人の教員による研究談義が始まったりする。テキストは学問入門のための触媒に過ぎない。

■夏の飛騨天文台合宿
 夏の飛騨天文台合宿(写真参照)は,学生にとって最も楽しい経験だ。飛騨天文台の最先端の望遠鏡や設備を見学し,天気が良ければ,太陽や星の観望もできる。運が良ければ,満天の星空に堂々たる天の川を見つけ感動して涙する女子学生もいたりする。合宿では ゼミ発表も重要行事。各人が自分の興味で自由に選んだ宇宙関係の話題の自由研究発表をやる。夜になると,自炊で準備した夕食は毎回コンパ状態と化す。半年間同じゼミに出席していたのに,合宿のとき初めて親密に言葉を交わす学生達もいる。一度驚いたのは,小学生のときに同じクラスにいたことが夏季合宿で初めて判明した学生達がいたこと。合宿とはそういう人と人との交流の場なのかもしれない。

柴田一成教授 嶺重慎教授

理学研究科附属花山天文台
柴田一成教授
専門分野:太陽宇宙プラズマ物理学

基礎物理学研究所
嶺重慎教授
専門分野:宇宙物理学