中央アジアの砂漠化に学ぶ環境保全 2005年度

■20世紀最大の環境破壊
 「アラル海が消える!?」20年ほど前から囁かれていたことが,旧ソ連の崩壊とともに徐々に姿をあらわしてきた。砂漠に灌漑水路を巡らせ水田や綿花栽培を中心とした農地への転換が図られて20年余り。古来天山の雪解け水を集めた雄渾の大河シルダリアは灌漑水採取のために痩せ細り,河口の先に広がるべきアラル海はその湖岸を100km以上も後退させた。その結果,かつて渡り鳥が羽を休めた河口湿地生態系と地域の主要産業である漁業は崩壊し,残された住民は飲料水質の悪化などにより健康を蝕まれつつある。そのような大きな犠牲を払って構築された農業生産システムも,不適切な灌漑により土壌の塩類集積(砂漠化)が進行した結果,耕作放棄された農地が100万haを数え,20-30%の作物収量の低下を招いており,離農を余儀なくされた農民も数多い。この20世紀最大ともいわれる環境破壊から何を学び,これから何をなすべきか?

■学際的な研究アプローチ
 90年代初頭から私たちは環境科学,土壌学,水文学,水産学,林学,農業経済学,疫学,栄養学などの専門家からなる研究チームを組織し,現地カザフスタンの科学アカデミー,大学,NPO研究者や農業,医療セクターの実務家,地域住民とともに,この問題の解析と解決のための共同研究に取り組んできた。環境問題の解決には,従来確立されている学問体系や研究手法に則った堅実かつ深化した研究が必要であることはいうまでもないが,それに加えて,それぞれの分野の研究者が相互に成果を共有し,地域環境と住民のために必要かつ適切な「出口」を見いだそうという共通認識が不可欠である。私たちが学際的な研究アプローチを取る所以である。

■現場で伝える次世代へのメッセージ
 私たちはこの研究との取り組みを次世代に引き継ぐ一つの機会としてポケゼミを選んだ。問題の重大さ,社会への広範な啓蒙の必要性に鑑みるならば,ポケゼミは必ずしも適切な方法ではないかもしれない。今回の1回生6名という少人数の参加者とともに,現地に赴き,安全に土壌・植生・水質などの環境調査と地域住民へのインタビューを実施し,ゼミの実効を上げるためには,参加者に倍する引率者および現地サポーターを投入する必要がある。これは私たちにとっては大きな経済的かつ時間的な負担であることは事実である。しかし,環境問題とその研究のあり方を共有するためには,さらに次世代の研究者を養成するためには,単なる講義のような座学では不十分である。研究の面白さ,重要さ,困難さや悩み,さらには現地の環境や住民の叫びをも感じてもらうためには,やはり「現場」が必要であり,そこで伝わるメッセージこそが次世代の研究者を創る「種」となるのではないかと考えている。これこそ,フィールドワークの伝統に根ざした「京大ならでは」のポケゼミ,ではないだろうか。さて,参加者の後日談が楽しみである。

小崎隆教授

地球環境学堂・農学研究科
専門分野:陸域生態系管理学(土壌学)