機械要素の設計と製作入門 2008年度

 日本はものつくり立国である、日本のものつくり技術のレベルの高さは世界に誇るものであり、日本の産業の国際的競争力を支える基礎である―という話はテレビや新聞などでもよく耳にすることと思います。多くの場合そのような話のあとに、現在日本のものつくり産業は、アジア諸国をはじめとする安価な労働力を持つ国々との熾烈な競争のもとにある、今こそ日本人はものつくりの重要性を再認識すべきである―という類の話が続きます。このような話自体は、分野によって多少の違いはあるでしょうが、大筋でその通りと言ってよいと思います。でも、ちょっと改めて考えてみると、ものつくり技術というのは「具体的には」どういう技術なのでしょう?
 日本のものつくり技術のレベルが高い、というのは日本のメーカの例えばどういうところが優れているの?と訊ねられたら、あなたはきちんと答えることができますか?
 例えば芸術家がノミや彫刻刀で彫像をつくる―こういう技術の高さは我々にも容易に理解することができます。でも、我々の日常にあふれる大量生産品のものつくりの大部分は、機械によって行われます。機械を動かすのは、多くの場合コンピュータです。機械とコンピュータによって行われるものつくりのなかで、その技術の高さというのは一体どういうものなのでしょう?
 コンピュータというのは、同じプログラムを使えば誰でも同じことができるのではないですか?
 本ゼミでは、身の回りにあふれる工業製品の機械要素のひとつを題材に取り、コンピュータを前提とした設計、生産という一連のものつくりの流れを体験してもらうことを目的としています。2008年度は、小型のファン(風車)を題材とし、風力発電に適したファンを製作するという課題に取り組みました。ファンは何故回るのか?というところからスタートし、よく回るファンを設計するというのはどういうことなのか?を簡単な実験も交えながら考えていきます。さらに、最近数年で急速に日本のものつくり産業への普及が進んだ3次元CAD、3次元CAMと呼ばれるソフトウェアを使って、ファンの作図、加工のためのプログラム作りをします。最後に、コンピュータ制御の小型の工作機械を用いて、実際に加工し、狙い通りによく回るファンができたかどうか、評価を行います。
 コンピュータ技術を前提とした現代のものつくりというものがどういうものなのか、ゼミで行うことはそのとても簡単な一例でしかありませんが、一連の流れを実際に体験して考えてもらう、というのがこのゼミの目的です。優れたものつくりのためには、様々な工学的分野に関する知識と共に、知識を基本とした発想が大事です。エンジニアリングとは、そういう意味でとてもクリエイティブな仕事だと思います。そういう面白さみたいなものも感じてもらえるといいなと思います。

複数名で行います

松原厚教授、茨木創一准教授
工学研究科マイクロエンジニアリング専攻
専門分野:機械加工,工作機械,制御・計測