地盤の科学入門 2008年度

【写真1】研究室の風景
【写真2】ポートアイランド
【写真3】バイカル湖のMH

 地盤の科学入門は1998年ポケットゼミが始まって以来継続している授業です。地盤力学研究室を中心に地盤系の研究室のスタッフで担当してきました。二十年度の担当は岡二三生、勝見武、木元小百合、肥後陽介の四人です。【写真1】は研究室での風景で、右下から、岡、木元、肥後、左は学生です。地球工学では土質力学という科目があります。土の力学の難しさは、工学的応用のみでなく、物性そのものを研究する必要があるわけで理学的な側面があります。地盤の科学は砂や粘土など土や軟らかい岩を対象としていますが応用のみでなく基礎的な地盤の挙動を含んでいます。学生諸君は、地盤の工学的な取り扱いのみでなく、粉体や粒状体の力学など広がりのある問題に接する機会として地盤の科学に触れてほしい。
 以下取り上げてきた2つの話題について紹介しましょう。
1)1998年は、阪神大震災から3年目で震災の記憶も新たでしたので、被害の原因の1つである地盤の液状化を取り上げました。地盤の液状化とは普段は地下水を含んでも固体状でしっかりした砂地盤が、地震などによって力を受けると、地盤が液体状になる現象で、1995年に起こった兵庫県南部地震では、神戸市の沖合に建設された埋立地(ポートアイランド)で大規模な液状化現象が発生しました【写真2】。液状化はその結果生じる墳砂、すなわち水と砂が混ざり合って地表に噴き出ること、また出た砂を見ることよって発生したことがわかります。ポートアイランドでは、埋立地の約半分が、水と土砂のまざった泥水でおおわれました。ゼミでは、講義のみでなく、水槽中の水で飽和した砂の中にフイルムケースをいれておき、振動させることによって浮き上がる簡単な実験や、ゴムケースにいれた飽和砂を押えて、体積変化の特性など収縮と膨張の実験を行い、液状化を学生自身に体験してもらいます。
2)2つ目のテーマは新しいエネルギ源である地盤中のメタンハイドレート(MH)に関する話です。メタンガスは、温度が低く圧力が高いと、たとえば温度が摂氏5度で5MPaなどではシャーベットのようなハイドレート(水和)状態で存在します。低温・高圧条件下で、水分子がメタン分子を取り込み、籠状構造を形成したもので、主に海底地盤、永久凍土下に存在しており、世界の海底下やカナダやロシアの寒冷地の地下に存在します。【写真3】の白い部分はバイカル湖の湖底から引き上げられたMH。日本では南海トラフ、新潟沖やオホーツク海底下などにあります。現在このメタンハイドレートからメタンガスを生産するための研究や、MHの存在や自然分解そのものの研究が行われています。地盤中の存在するMHが分解すると地盤の沈下や海底すべりなどの変形破壊が発生する可能性があるため、MHに関する環境への影響を明らかにする必要があるわけです。ゼミでは最新のデータなどを材料に環境への影響やエネルギとして使用する場合の問題点を検討しています。その他、トンネルの掘り方、地下水くみ上げによる地盤沈下問題などを取り上げてきました。今後は、地盤の化学的汚染問題も取り上げる予定です。工学研究科の桂キャンパス移転で研究室が桂に移ったので、吉田キャンパスだけでなく桂キャンパスでもゼミを行う予定です。また、夏休みに見学も行います。

岡 二三生(おか ふさお)

工学研究科 教授
広島県出身 昭和47年京大工学部卒
専門 地盤力学、地盤の液状化など。趣味:山登り、ゴルフ