ロマン主義と現代 2008年度

 ポケットゼミは、入学したばかりの1回生に大学で学ぶ学問の面白さを伝えることが任務です。また、受講生もあらゆる学部の学生を対象にしています。大学で学ぶ学問の目的は、分野毎に必要とされる多くの知識を獲得することではなく、自分で考える能力を身につけることにあります。この能力は、分野を越えて大学生に最終的に求められているものです。私は法学部で政治思想史の授業を担当しています。専門科目としての政治思想史は、政治学関係の様々な授業の基礎となる原理的な知識を歴史的に考察する分野ですが、私はポケットゼミでは政治学の基礎分野というよりは、歴史学の一分野でもある政治思想史の面白さを知ってもらおうと考えました。歴史学の面白さとは、時代によって人間の感じ方、考え方がいかに異なっているかに驚き、そして現代もまた変遷を経てきた歴史のひとこまでしかないことに思いを致すことです。このような感受性を自分のなかに育むことは、過去を理解することのみならず、同時代にあっても異文化はもとより、およそ他者を理解する上で不可欠です。この課題に応えるために、私は「ロマン主義と現代」というテーマを選びました。
 19世紀前半のヨーロッパを風靡したロマン主義は、メルヘンチックな世界に遊ぶことを夢見る子供じみた思想ではありません。それは、自己と自己を取り巻く世界や他者との関係に障害が生じたときに歴史上しばしば現れる精神状態の反映であり、19世紀ロマン主義もそのひとつの現れにすぎません。したがって、ロマン主義は、豊かな物質文明を享受しているにもかかわらず、どこか精神的に満たされないものを感じている私たち現代人にとっても無縁ではないはずです。このポケットゼミでは、芸術、哲学、政治思想を横断しつつ、ロマン主義が現代にもっている意味を各自に考えてもらうことが目的です。授業では、美術作品を見て、音楽作品を聞き、また短い小説を読むなかで、まずなによりも時代の変化を受講生に感じ取ってもらいながら、その上で自由に議論をしてもらう作業を通じて、自分を振り返るとともに他者を理解するための豊かな感受性を養ってもらいたいと考えています。
 具体的には、以下の順番で、ロマン主義が現代にまでどのように受け継がれてきたかを見ていきます。
 1.マニエリスムvs.古典主義
 2.バロック様式からロココ様式へ - 感情の覚醒
 3.前ロマン主義 - 「疾風怒濤」から古典主義へ
 4.ロマン主義( 1 ) - 内面の探求
 5.ロマン主義( 2 ) - 民族精神の発見
 6.ロマン主義( 3 ) - ブルジョア的様式としてのビーダーマイヤー
 7.後期ロマン主義 - 内面性から匿名性へ
 8.「世紀末」の苦悩 - 言語の解体
 9.遅れて来たロマン主義者 - 「市民」vs.「芸術家」
 10. 表現主義 - 混沌から新たな秩序へ
 11.実存主義 - 自我の相克
 12.オタクの時代 - 現代のロマン主義者?

小野紀明教授

公共政策大学院
専門分野:西洋政治思想史