公共政策のための社会科学入門 2011年度

 公共政策、すなわち、政府の取り組みは、国民一人一人の暮らしぶりや幸福、そして、その国の形そのものに、現在のみならず遠い将来に至るまで重大な影響を及ぼす、意志的かつ選択的な行為である。この公共政策の在り方を考えるためには、社会哲学、政治経済学、社会学、公共心理学を含めた社会科学の諸知見が貢献を果たす事ができる。あるいはむしろ逆に、それぞれの社会科学的知見が、そうした貢献がどの程度果たせるのか否かによって、その社会科学的価値を推し量ることが出来ると言い得るものである。本ゼミでは、そうした認識に基づいて、公共政策と社会科学の関係を述べた上で、社会科学の基本的な考え方と代表的な議論を概説した上で、それらに基づく具体的な実践として如何なるものがあるのかを講述し、公共政策のための社会科学の理解を促すことを目的とする。

藤井からは、まず公共政策と社会科学の関連についての概論を述べた上で、中野から、社会科学における基本的な概念である方法論的個人主義と全体論について、そして、経済に関わる社会科学における三大学派である「経済自由主義」「経済ナショナリズム」「マルクス主義」を論述する。その上で、フリードリッヒ・ハイエク、カール・ポランニー、ジョン・メイナード・ケインズ、ヨーゼフ・シュンペーターといった、経済学に関わる代表的な社会科学者達の理論の要諦を論述する。

 以上の基礎的な社会科学理論の概論をふまえた上で、後半で藤井より、より具体的に「公共政策において、どのように社会科学理論を援用していくべきなのか」を論ずる。すなわち、社会心理学に基づく公共政策論、社会学に基づく社会政策・都市計画論、大衆社会論・政治哲学に基づく行政政策論、そして、社会哲学に基づく政策目的論のそれぞれを具体的な公共政策に援用する方法論を講述する。

キーワード  公共政策、政治経済学、社会学、公共心理学

藤井 聡(ふじい さとし)(右)
教授.1968年奈良県生まれ。京都大学卒業後、同大学助手、助教授、東京工業大学助教授,教授を経て現職。専門は交通工学,土木計画学、公共政策のための心理学.文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本学術振興会賞、土木学会論文賞、社会心理学会奨励論文賞、表現者奨励賞等,受賞多数。主な著書は「公共事業が日本を救う(文春文庫)」「なぜ正直者は得をするのか(幻冬舎)」「社会的ジレンマの処方箋(ナカニシヤ)」「土木計画学(学芸出版)」等多数。

中野剛志(なかのたけし)(左)
助教.1971年神奈川県生まれ.1996年東京大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。2001年エディンバラ大学大学院より優等修士号(Msc with distinction)取得。2005年同大学院より博士号(社会科学)を取得。専門は経済ナショナリズム。Nations and Nationalism Prizeを受賞。2005年同大学院より博士号(社会科学)を取得。2010年より現職。著作は「国力論-経済ナショナリズムの系譜」(以文社)等多数。

※いずれも工学研究科。