小さな微生物の大きな力 2011年度

図1.世界に広がる微生物工場
図2.微生物がつくる機能性油脂

 目に見えない小さな生物「微生物」。ところが、彼らは私たちの日常生活、さらには、健やかな地球環境の維持に大いに貢献しているのです。その働きを人類がどのように活用してきたか、いにしえの発酵・醸造から現代のバイオテクノロジーへの展開を紐解いてみたいと思います。また、自然界に生息する微生物の姿を実際に観察し、その特徴的な機能を実感する実験を通して、小さな微生物の大きな力をこれからの地球社会にいかに活かしてゆくかを議論してみたいと思います。

「日本は微生物資源大国?」
 日本は資源に乏しい国と言われています。しかし、微生物に関しては世界に冠たる資源大国であることをご存知でしょうか?日本は国土が南北に長く、山あり河あり地形も変化に富んでいるうえ、四季の移り変りもあります。つまり、変化に富んだ自然があるわけです。従って、生息する微生物も多種多様で、それらは四季の変化に応じて刻々と変化しています。数と種類が多いということは、私達が探しさえすれば、優れた能力や未知の能力を持っている微生物と出合う可能性もきわめて高いということになります。微生物のもつユニークな潜在能力を探索・開発し、それらを産業や暮らしに役立てることを目標にする私たちの研究の一端を紹介します。

「微生物は21世紀の化学工業を変える(環境への貢献)」
 20世紀における石油を原料とする化学工業の発達により、人々の暮らしは飛躍的に豊かになりました。その反面、資源浪費・環境汚染・地球温暖化などの諸問題が発生しています。これらの問題を解決していく手段のひとつとして、微生物を利用した物質生産法が注目されています。化学触媒に代わり微生物を触媒として物質変換反応を行うことにより、環境への負荷が大幅に低減されます。私達の研究室で生まれた生産プロセスは数多く実用化され(図1)、石油依存の従来技術からバイオ技術による未来型生産技術への転換例として、世界的にも注目されています。

「油脂製造工場としての微生物(健康への貢献)」
 油脂を蓄積する微生物の探索を行ったところ、体脂肪率70%という驚異的なカビを発見しました。この超肥満のカビを顕微鏡で観察すると、油滴が細胞内にびっしりと詰まっています(図2)。実はこの油は「高度不飽和脂肪酸」と呼ばれる油脂で、我々の健康維持に役立つ栄養補助食品などとして非常に高い利用価値があります。このカビの作る油は「発酵油脂」として産業的にも注目を集めています。このように予想もつかない能力を秘めた微生物を利用した物質生産法は、21世紀の製造プロセスの核となる技術として、大いに期待されています。

小川 順(おがわ じゅん)

農学研究科・応用生命科学専攻・発酵生理及び醸造学分野、教授
滋賀県大津市出身、徳島県徳島市育ち。
<研究テーマと抱負>
微生物に多様な機能を探索し、それを社会のために役立てる研究をしたい。
<趣味> クラシック音楽(鑑賞、オーボエ演奏と指揮)、酒悦食楽