応用微生物学入門 2011年度

 目に見えない生物、微生物、を自然界から分離し、その形態や増殖能を実験で確認することにより、微生物の類まれなパワーの一端を理解します。それに先立つ講義では、微生物学の歴史と現代科学との関係を概観します。授業には研究室の助教、准教授、教授に大学院生も加わり、8月上旬に京大宇治キャンパスで2日間集中で行います。宇治キャンパスを知る好機です。

 微生物と聞くと、大腸菌や酵母を想像されるでしょう。これらも微生物です。しかし、実際に微生物を見たことはないと思います。1mmの千分の一くらいの大きさですから目には見えません。今から350年ほど前、オランダのレウエンホックという人が顕微鏡を作り、初めて微生物を発見しました。それ以後、パスツールやコッホなどの偉大な科学者によって微生物学が形つくられ、数学、物理学、化学などと同じ自然科学の中に加わりました。若い若い学問です。
 微生物はどこにでもいます。目の前の空気中にも、土の中にも、池にも川にも、手の平にも、皮膚にも、口の中にも。腹の中には10の10乗から10の11乗くらいの微生物がいます。人間は「微生物の海の中を漂っている」と表現されるほどです。物が腐る。微生物の仕業です。酒、ビール、パン、味噌、納豆、醤油、漬物、チーズができる。抗生物質という薬もできる。全て微生物の力です。風呂や流しに“ぬめり”ができる。身の回りのゴミなどが消えてしまう。微生物の仕業です。環境を整え、物質を分解して元素の循環まで行います。人間の役に立つ微生物から病原性の微生物まで、多様な種類の微生物が存在し、人類はその微生物と共存し、また時には敵対しています。しかし、微生物なくして我々は生存できません。我々の生活も成り立ちません。微生物は、動物、植物とともに自然界で三角形の頂点に君臨しています。地球上で最大の生物集団です。
 一方、微生物は生命科学の発展に極めて重大な役割を果たしました。DNA複製機構やタンパク質合成機構などなど、生物学上の重要な原理の殆ど全てが微生物を用いて解き明かされました。「大腸菌で正しいことは象でも正しい」、「微生物に不可能はない」とさえ言われてきました。これは、現在でもその通りです。微生物は、生化学、分子生物学、遺伝子工学、生物工学、それらに関するバイオテクノロジーを強力に推し進めてきた素晴らし生物なのです。今年は人間の手で細菌がつくられました。生命の設計図がパソコンで作られたのです。また、猛毒のヒ素をリンの代わりに使う細菌まで発見されました。宇宙では生命の種探しも進んでいます。
 生命はどこから来たのか。生命は自然に湧いて出ると主張した科学者もいました(自然発生説)。ある科学者は、生命は生命あるものから生まれると主張しました(生物発生説)。この論争の息の根を止めたのがパスツールです。生物発生説を簡単なフラスコを用いて証明したのです。今、科学は生命の起源の解明に向かって進んでいます。そこは、単細胞である微生物の独壇場です。
 このゼミでは、実際に微生物を自然界から分離し、その観察(形態や増殖)を通じて、微生物が秘めているパワーの一端を理解してもらうことを目的にしています。理学部や農学部など理系の学生が集います。この研究室には口を持った細菌もいます。是非とも見に来てください。

村田 幸作

農学研究科食品生物科学専攻生物機能変換学分野、教授
昭和23(1948)年生まれ
出身地:京都府綾部市
専門分野:応用微生物学・分子生物学
趣味:古寺巡礼・農作業(園芸レベル)