小笠原の自然と文化:世界自然遺産に向けて 2011年度

小笠原父島の港、二見湾の風景
小笠原父島の乾性低木林での調査風景
フラダンス用のレイ作り

 東京から約100km南に位置する海洋島である小笠原で、その自然と文化を学びます。小笠原は、美しい自然、珍しい岩石や動植物の宝庫であり、現在世界自然遺産登録に向けての様々な活動が行われています。ここでは、木生シダやビロウなどが見られる亜熱帯の森林が見られます。小笠原諸島の多くは海底火山が隆起してできた島であり、土壌の発達が悪い上に、同じ緯度の沖縄と比べてくも半分近くほどしか年間の降水量はありません。そこで日本では他に例を見ない、背丈が低く、乾燥や貧栄養環境に適応した樹木からなる、乾性低木林と呼ばれる林が見られます。小笠原には多くの島固有の動植物がいますが、人々によって持ち込まれた外来性の動植物が島内で広がり、固有種の分布や生存を狭めていっています。また小笠原諸島は、江戸末期に外国人が初めて島に住み、明治以降日本人による入植が本格的に始まった島で、第二次世界大戦後はしばらくアメリカ合衆国の統治下にもありました。そこで文化的には、八丈島などの影響の他に、欧米との関わりも深いです。また戦後新しく人々が住み始め、新規の文化も創られつつある島です。

 このゼミでは、こういった小笠原諸島の自然や、社会、文化に実際にふれ、それを学びます。私、石田厚は、小笠原やタイで植物生態学の研究を行っています。そこで首都大学の可知先生(植物生態学)やD.ロング先生(言語学)、現地の各分野の専門家の協力を受け、また首都大学の学生達とタイアップして実習を行っていくことによって、自然系だけでなく人文社会系を含めた幅広いテーマで実習を行っていきます。

 小笠原には民間の飛行場は無いため、定期航路の船で行きます。船は片道26時間ほどかかりますので、船内で1泊することになります。小笠原丸という一つの船が、東京の竹芝桟橋と父島の間を行き来し、父島に通常3泊するので、最低でも6日かかる旅になります。渡航途中では、伊豆諸島の島々の他、カツオドリやイルカ、トビウオにも出会えるかもしれません。8月の中下旬に、小笠原丸の船中2泊を含み、5泊6日の野外実習を予定しております。台風等のため船が出航しない場合は、予定の変更や延期もありえます。

 小笠原に行く前に、自然科学系、社会科学系含め各自興味をもったテーマで予習とプレゼンを行い、また実習後にレポートもしくはプレゼンを行って、15回分の授業(実習を含む)とします。島内では車1台で移動するため、車の定員の関係で京都大学からの参加は4名までとします。小笠原では、美しく珍しい自然にふれることができますが、なかなか普段は行きづらい島です。またこの実習では首都大といった他大学の学生や先生達との交流も持てます。この機会に小笠原に行き、幅広く島嶼の勉強をしてみるのは、楽しく有意義な経験となるでしょう。

石田 厚

生態学研究センター、教授