発達障害の子どもの療育入門 2011年度

 京都大学霊長類研究所認知学習分野では、2004年以来、発達障害の子ども向けの教材の開発を独自に行い、それにもとづいた学習支援の試行を行ってきている。2010年度現在、実践活動の拠点は京都市、名古屋市、岐阜県可児市の3カ所となり、支援に参加している生徒の数は50名にのぼる規模となっている。それぞれの生徒は原則として週に一度、拠点に設定された場所で専門スタッフにより、60分程度の支援を受け、かつ支援の進行にともないインターネットを介して、家庭でも同一教材を用いて学習をおこなうようになっている。今まで、参加してのち脱落した子どもは皆無である。開発した教材のオリジナルな点としては、コンピュータ(ウインドウズ)による学習であることを挙げることができるだろう。具体的な内容は、ひらがなとカタカナによる日本語の読み書きの学習が基本となっている。原則として画面上に、見本となる単語あるいは文が、ひらがなあるいはカタカナで提示される。それを子どもが自分自身、キーボード操作により、かな入力で再現することを繰り返して、レッスンは進行する。キーボードは画面上にも表示される。進行に応じて、見本刺激の難易度は、高くできるように工夫されている。実際に使われている日本語語彙はすべて、小学校1・2年用の国語の教科書に準拠している。単語練習課題では、語彙の提示が視覚と聴覚同時に行われ、かつ各語彙の意味する内容を写真で表示することが可能となっている。これによって子どもは、課題に取り組むことへの関心を高く保ったままでいれることが過去の私たちの研究で明らかになっている。提示される語彙(文)を表す文字と、音として流れる文字に対応する発音、そして語彙の場合にはそれぞれの写真―いずれも、それぞれを敢えて表示しないでキーボード入力を子どもにもとめることもまた、可能である。つまり単語としての「りんご」を、発音を耳にすることなく、写真もなく、文字を目で追うだけでキーボード入力したり、逆に画面には何も表示されないのに、「りんご」と耳で聞いただけで入力する作業ができるようになっている。これは課題に習熟するにつれて、「読み」や「聞き取り」を重点的にトレーニングすることを目的としている。また文字の提示時間も自由に操作できる。たとえば一瞬だけ、刺激単語(あるいは文)が表示され、そののちすぐに消えてしまったのを、一時的に記憶しておいてキーボード入力で再生するという課題を設定することも、できるようになっている。支援を受ける子どもの進捗状況に応じ、どこが苦手かを注意深く見守りながら「ひとりひとりに合った」支援をおこなうための手段として開発されている。本セミナーでは、こうした教材をもちいた学習支援方法などについて紹介する。

正高 信男

霊長類研究所、教授
1954年生まれ
専門は認知科学