地域高齢者の生活と健康に関する実態調査 2011年度

四国の水瓶、早明浦ダム(宿舎から眺める)
土佐町健診合宿メンバー(土佐町公民館)
夕食後のゼミでの学生・院生発表風景
毎年恒例の土佐町老人クラブとの懇親会

 高知県土佐町に暮らす75歳以上の高齢者に対するインタビュー、医学健診を実習するとともに、当該地域における自然生態系ならびに文化について学習する。参加者は、医師約10名、院生・医学生15名、京大1回生5名で、1週間の合宿を行う。 本ゼミは、過去7年間にわたって毎年実施しており、午前?夕方:高齢者健診、夕食後ゼミ、その後、懇談茶話会といったハードスケジュールですが、参加学生の感想文では、「高齢者のかたがたに実際に接してみて、瞳が洗われた」といった感想が多く、好評です。
 本健診はフィールド医学研究でもあり、高知県土佐町から院生たちによって世界に発信された英語論文は、ふたけたになっております。
 超高齢者会をむかえている日本の中山間地域のお年寄りが、どのような暮らしをなさっているのか、高齢者に関心のある新入生の参加を期待しております。
 期日:23年8月6日~12日(予定)
 場所:高知県土佐町

【シラバス】
 高齢者で問題となるのは、疾病や臓器障害の有無とは次元を異にする障害、すなわち個体レベルの生活機能障害です。認知症や寝たきり、脳卒中後遺症、骨・関節疾患等の疾患のみならず、視力・聴力低下などのように加齢自体によってももたらされる生活機能障害の特徴は、主要な次元が生死よりもむしろ、本人の苦痛、能力の障害、社会的ハンディキャップというように、簡単に測定することが困難で、しかも本人自身にしかわからない問題を抱えていることです。高齢者の健康増進という観点から重要なことは、この「生活機能障害=disability」を評価し、障害を可能な限り改善あるいは予防することであるともいえます。

 近年、高齢者医療の現場では、高齢者のための総合機能評価(Comprehensive Geriatirc Assessment;CGA)という概念が取り入れられつつあります。CGAとは、高齢者を疾患単位(Disease)だけでなく、生活機能障害(Disability)の立場からもとらえ、それも身体的機能のみならず精神・心理的、社会・環境的側面も重視した包括的な評価を実施し、能力の維持、機能劣化の予防に対して多種職の専門家からなるチーム医療、看護、介護をおこなうとする考え方です。評価した包括的活動能力の内容としては、医学的な諸問題以外に、
(1)知的能力 (intelligence)、(2)基本的日常生活能力 (basic ADL)、(3)より高度の日常生活能力(Instrumental, advanced ADL)、(4)うつ傾向の有無 (mood)、5)社会的背景(social support)、(6)ライフスタイル、(7)主観的 quality of life (QOL)、等の項目です。

 従来の医療と高齢者医療は質的に異質な面があります。従来の医療が標準的、普遍的な性格を持つのに対して、高齢者医療はすぐれて多様性をもった個人的なものです。通常の医療が生命を至上とするのに対して、高齢者医療はADLとQOLを重視します。一般医療の最終的目標が疾病の診断・治療にあるのに対し、高齢者医療の目標は生活機能障害を評価し、生活の自立とQOLの維持向上をめざします。一般医療には高度な専門性が要求されるのに対して、高齢者医療では学際的なチームワークが要請されます。通常医療の主たる場が病院であるのに対し、高齢者医療・介護の場は多くの場合、家庭であり地域です。その意味で、通常医療は臨床的ですが、高齢者医療・介護はどちらかというと臨地性(フィールド)が重視されねばなりません。さらに、元気な高齢者のありさまと同時に、高知県土佐町の豊かな自然にも触れていただきたいと思います。

【学習到達目標】
(1)日本人高齢者の基本的問題点と実態を理解する。
(2)CGAの重要性とその方法論を体験する。
(3)フィールド(臨地)医学とは何かを講ずる。

松林 公蔵

東南アジア研究所、教授
佐賀県出身
専門分野:フィールド医学、老年医学、神経内科学
趣味:登山