コミュニケーションデザイン 2011年度

三重県立博物館リニューアルプロジェクト報告書
神戸芸術工科大学で実施したインクルーシブデザインワークショップのチラシ

 このポケゼミの目的は,科学コミュニケーション,医療コミュニケーション,あらゆる場面で重要性が増すコミュニケーションの場を自らデザインする方法論の習得です.授業では、自らが着目した社会問題を、どのようなコミュニケーションの場づくりによって解決策を具現化するか起案できる能力を身につけていただこうと思っています。法,医,理,工,経,文,農,薬,など様々な専門家同士が集まる場,あるいは専門家と市民との対話の場など,具体的な場を対象とします.

 たとえば図1は,2009年からはじまった三重県立博物館のリニューアルプロジェクトで実践したコミュニケーションデザインに関する報告書の一部です.県立博物館を5カ年計画で全面改築するにあたり,地域の人や子どもたちを巻き込んだ博物館づくりをするのが目的で,プロジェクトと並行して3カ年で子どもたちの「モノの見方」を変えるワークショップのデザインというものを依頼されました.

 子どもたちがモノを大切に見る力を養う,対象は小学校高学年,教える教育から離れて学びを大切にする空間づくり,できるだけアナログで,そしてそれを3時間で.コミュニケーションの場づくりの目標やさまざまな制約条件の中で,子どもたちの笑顔を大切に,そしてしっかりとした学びの場をつくるのがコミュニケーションデザインです.

 図2に示すのは,2010年に神戸芸術工科大学からの依頼で神戸市の授産施設のスタッフとともに学べる場づくりを依頼されたときにつくったチラシです.各地の授産施設では工賃倍増計画という目標がかかげられているものの,具体的なビジネスとはかい離があって,すぐに売れるものを生産できるとは限りません.そこで,神戸芸術江大学とともにいかにして市場調査を授産施設でできるものにデザインできるか,という場づくりに挑戦しました.

 対象は授産施設で知的障害のある人の作業を支援するスタッフ,紙や竹細工など工芸品を売れるものにしたい,デザインの専門家やマーケティングの専門家と対話できる意識改革をしてもらいたい,神戸市北区の農地を利用したいが競合する農家との差別化が図られていない,誰のためにつくるかという市場調査の具体的な方法を知りたい.どのコミュニケーションの場づくりにおいても,目標や制約条件を列挙することが重要で,その中で参加者の学びが大きくなるようなコミュニケーションデザインが必要です.

 ほかにも病院における看護師と医療機器メーカ職員との対話,先端の科学技術者と市民との対話など,参加者が専門性の垣根を越えて対話できる場づくりの手法を学ぶため、ワークショップの実践を通じて具体的方法論の習得を目指します。

 京都大学の教育に関する基本理念として「対話を根幹とした自学自習」を掲げています。この「対話」をキーワードに,そのような学びの場そのものを自らデザインできる能力がいま社会で求められているのだと思います.

塩瀬 隆之

総合博物館、准教授
1973年生
大阪出身
専門分野:システム工学,コミュニケーションデザイン
趣味:サッカー,ガンダム,釣り,ワークショップづくり