海岸生物の生活史 2011年度

白浜半島先端の番所崎での磯観察
瀬戸臨海実験所実習室での観察やとりまとめ

 新緑萌え、太陽キララな勤務地、自然豊かで風光明媚な和歌山県白浜町で実施。定員は12名で、様々な学部から参加がある。5月1日-5日GWに実施。瀬戸臨海実験所周辺の磯浜海岸や瀬戸漁港でのフィールドワーク中心に、地元の動物を飼育展示した水族館も活用し、標本やオリジナルDVD/CDも駆使し、動物の形態・行動の観察・スケッチ等を通し、各々がいかなる特性があるのか、拙著「宝の海から」等の参考書や各種文献で調べてまとめる。

「地球の住民たち,動物篇」で、現地球に生きる144万動物種の門ランクへのまとめを視聴覚フルに使って学習。ベントスとプランクトン観察で想像を絶する親子関係を確認。動物中の最神秘種、生活史を繰り返し逆転できる“ベニクラゲの若返り奇跡”の各発育段階を確認し、カラオケ(UGA)にも収録されている「ベニクラゲ音頭」・「スカーレットメジューサ」でも紹介する。5億6千万年前も太古の祖先動物「エディアカラのクリ-チャ-」の紹介と森・里・海の生命体相互営みで息づいてきた歴史と未来への夢を託す「生命(いのち)の星」のなりたちを曲でも心に訴える。

 多様な動物群を現場で実地体験する有効性はもとより、専攻の異なる者同志が寝食共にし、整った設備と廉価な宿泊施設で親交も深められる。そのような受講生の感想(一部):「漂着物採集、漁港見学、夜の水族館など・・・全てが新鮮で、ただ感激と驚きでいっぱいでした。いくらでも器具が使え蔵書が読め、調査ができる環境を与えて頂き、京都大学らしさを実感しました。」「人間以外の生物には個に各々の名前はない。その言葉にドキリとした。生存競争の中で暮らし、誰かに名前を知られることもなく死んでゆく生物たち・・・人間に生まれてきたことを本当に感謝した。苦しいことがあってもこれを思えば頑張れそう。しかし、これ以上生態系を壊してはいけない。地球上に住む一員として、他の生物たちと共によい世界をつくっていきたい。」「いろいろな幼生とオトナになった時の姿の違いに驚いた。他にも様々なことをたくさん体験でき充実したGWをすごせた。」

 受講生へ贈った講師からのメッセージ:「微小な幼生から大型の成体まで海産動物の多彩な顔ぶれに現場で少しでも多く触れあい、ラボや水族館で観察をしてもらえた。この方面の深い知見を得るにはいくら時間があっても足らない。なぜなら生命の母なる“宝の海”には既知・未知生物が無数に多様に時空的に変化しあい、お互い影響しあいつつ存続してきているからだ。現生144万もの動物種が41門に分類できる基礎を心得、動物門ごとに、綱以下、最小ランクの種・亜種まで留意し、今後のそれぞれの人生で地球同朋体の一生、つまり卵から成体へ成長し子孫を残し死んでゆく、連綿と続く「生活史」を常に頭におき、懸命に生きる個体・種・地域個体群から地球全生命体の現在・過去・未来に思いを十二分に寄せてもらいたい。厳しく無情ともいえる食物網中で現存できる人間の特権を理解できれば、個々の生物を慈しみ愛せるはずだ。助け合い励ましあい、高めあえる人に誕生できた幸せを肝に銘じてほしい。“生命の星”が、おのずと愛おしくなると想う。末筆ながら、海洋生物中に興味が湧きあがる何か1種を見つけられ、その生活史を究明し、隣人に語らんとする希望が芽生えれば、本実習参加の意義がさらにあがるだろう。

久保田 信

・ 愛媛県松山市で誕生。「坊ちゃん」でおなじみの松山東高、愛媛大<br> 学、「青年よ大志を抱け」の北海道大学(理学博士を受く)を経て、<br> 京都大学フィールド科学教育研究センターの1部門で90年の伝統<br> ある瀬戸臨海実験所勤務。准教授。専門は博物学、特に動物系統<br> 分類学。日本生物地理学会など様々な学会に所属し活躍中。
・著書: 「宝の海から 白浜で出会った生き物たち」「地球の住民たち<br> 動物篇」など多数。
・CD: 「ベニクラゲ音頭」はじめ他多数; DVD:「宇宙のオアシス」<br> など他多数。
・趣味: 水族館・博物館・動植物園・美術館巡り、山歩き、温泉、<br> カラオケ、旅行など。