ベンチャー企業のための交渉ワークショップ 2011年度

 私は産官学連携本部という大学の活動を社会に役立てることをミッションにしている部署の中にある、イノベーションマネジメントサイエンス研究部門というところで、ベンチャー企業の研究と教育活動を行っています。元々、法学の研究者からキャリアをスタートさせ、経営コンサルタント、企業再建をへて、現在は主に投資家として活動しながら、京大でいくつかの授業を担当しています(前期では、「起業論」後期では「意思決定論」)

 ポケゼミは、前期と後期でそれぞれ2つ提供しています。

 ポケゼミでは少人数で、学生諸君が自ら参画できるような活動を提供できることから、「ディベート」と「交渉」という二つの違うタイプのコミュニケーションについて、理論学習と実践トレーニングができるものを用意しています。

 「ディベート」と「交渉」は対立した二当事者を前提にしている点で似通っていますが、「ディベート」では第三者を説得すること、「交渉」では、相手側当事者と同意を得ることを目標にしている点で対極をなしています。

 前期に行っている「ディベート入門」では一つのテーマに対して、対立した立場をとって、議論を組み立てるための立論の全体を扱うマクロ的なアプローチ、個別の命題の証明を目的とするミクロ的なアプローチとそれに対する反論の技術を理論的に学習するとともに、実際に、ディベートを行うことで、これらのスキルを自由に使えるようにすることを目指します。また、ディベートの判定理論を学ぶことで、対立する考え方があるときにどのように決断したらよいかについて考える機会を提供します。論題については、死刑廃止、医療政策と行った現実社会において激しく議論の分かれている専門的な政策意思決定にかかわるものから、日常的な話題まで広く採り上げます。

 一方、後期の「ベンチャー企業のための交渉ワークショップ」では、標準的な交渉理論を学んだ上で、ベンチャー企業を経営する上で実際に遭遇するであろう、ライセンス契約、人材の採用、売買交渉などを実際にチームに分かれて行います。最初は、ガレージセールといった身近な事例から、徐々に実践的な課題に挑戦してもらいます。交渉というと、「勘、経験、度胸」というイメージが強いですが、実際には、数学、心理学などの知見を利用した研究が進んでおり、人間活動の合理性と非合理性がアカデミックに研究されていること、そしてそれが現実に役立つことのダイナミズムを実感してもらえれば幸いです。

 前期の「ディベート入門」のダイジェスト版は昨年、ニコニコ動画でライブ授業の配信を行い延べ二万人近くの視聴者が見たものとして、京都大学新聞でも取り上げられました。

 私の通常の講義もすべて授業での討論を中心にしたものですが、100名以上が受講する大教室での授業となりますので(例年、しばらくは立ち見、さらには廊下にあふれるケースも少なくありません)、もう少し少人数でよりプロアクティブに参加したい、学生同士での交流を深めてみたいと考える意欲的な学生の参加を期待します。

瀧本 哲史

産官学連携本部 寄附研究部門教員
東京大学法学部卒 大学院をスキップして直ちに東京大学大学院法学政治学研究科助手に採用される。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、過大債務企業の再建、ケーブルテレビ会社の買収などを手がけるとともに、創業期のベンチャー企業に対する投資を多数行う。京都大学産官学連携センター寄付研究部門准教授を経て、現在は、客員准教授。