生物多様性と共生ネットワーク~野外調査からメタ・ゲノム解析まで~ 2011年度

 生態系のなかで生物は、おたがいにせめぎあったり、協力したりしながら、刻々と変化(進化)しています。その結果として、「どの種を餌とするか?」や「どの種と協力するか?」が決まり、種と種のネットワークとして生態系が存在しています。
 地球上にはすでに知られている種の数十倍、数百倍という数の未知の種が存在すると言われます。しかし、生態系におけるその働きが理解されることなく、まさに無数の生物種が絶滅の運命をたどりつつあります。こうした現状にあって、科学者はどんな貢献ができるのでしょうか?
 本ポケットゼミでは、生物多様性と生態系への理解をつうじて、地球レベルにおける環境問題に将来取り組む学生どうしの交流を提供できればと考えています。現在、「ゲノム」をキーワードとして、生物学全般が重要な過渡期を迎えています。生物の遺伝情報(ゲノム)は、生物多様性科学においても強力な道具となっていくはずですが、まだまだその利用法については改良の余地があります。「ゲノム」、「生物多様性」、「生態系」をキーワードに、みなさんと議論し、世界を先導する科学研究をともに目指して行きたいと思います。

<授業の概要・目的>
 急速に進む生物多様性の消失は何を引き起こすのか? こうした問いに答える上で、多様な生物が織りなす相互作用の輪(ネットワーク)を理解し、その機能を明らかにする必要がある。本実習では、生物種間のネットワークを読み解く、最先端の研究手法を体験する。野外調査による生物サンプルの採集と、「DNAバーコーディング(DNA配列の解析をもとにした生物種の同定)」を実習形式でおこなう。とくに、植物と真菌類(菌根菌)の「相利的(お互いにとって利益がある)」なネットワークに着目する。地下にひろがるこのネットワークは、地球規模のさまざまな環境問題を解決するための鍵をにぎっている。本実習では、ゲノム科学における最先端技術を応用する方法を学び、生態科学のフロンティアに挑戦する。

<授業計画と内容>
 陸上の生態系は、土の中で芽生え、やがて朽ちて土壌に帰る植物によって支えられている。この地下において、ほとんどの植物種は真菌類(キノコ・カビのなかま)と「菌根」を形成している。この菌根を介して、植物は窒素・リンなどの養分や水を真菌から得ており、この真菌との共生なしでは正常に生育できない植物も多い。一方で、植物は光合成で生成した炭水化物を真菌に与えており、両者の関係は相利的であると考えられている。
 植物の生存率や光合成活性を高めることで、地球規模の炭素循環にも極めて大きな影響力をもつ真菌類であるが、そのあまりに高い種の多様性のために、これまで研究が立ち後れてきた。そこで本実習では、真菌のDNA配列をもとにした種同定(DNAバーコーディング)を応用することで、「どの植物とどの真菌が地下で結びついているのか」を解明する。こうしたDNAバーコーディングのデータを集めて解析することで、植物と真菌がかたちづくる共生ネットワークの構造をあきらかにする。森林内の生物種がいかにして結びついているのか、最新のDNA解析技術を用いて解析する予定である。
 なお、植物と真菌のネットワークに限らず、学生が研究したい生物のネットワークがあるばあい、相談に応じて個々人の研究対象を変更することも可能である。
 本実習により、
  ・野外調査のしかた
  ・遺伝子実験の手順
  ・コンピューターを用いた遺伝子データの解析
  ・生態系の構造を理解するためのデータ処理
 を学ことができる。

 本実習は、8月中に、集中講義形式で実施する(日程は後日調整)。
  1日目: 生態学に関する基礎的な講義をおよび野外調査(京大周辺の森林)
  2日目: 採集した標本のDNA解析
  3日目: 採集した標本のDNA解析
  4日目: 採集した標本のDNA解析およびデータ解析
  5日目: データ解析とレポート作成
 生物多様性研究のフロンティアに挑戦する意欲のある学生が、お互いに刺激し合う環境づくりを目指す。実習内容に限らず、研究や学問にかんする相談に応じる。

<用語解説>
※DNAバーコーディング 
 ヒトをはじめとするさまざまな生物のDNA配列は、国際的なデータベース上で管理されている。現在急速に蓄積されているDNA配列のデータは、インターネットを通じて閲覧が可能である。このデータベースを利用することで、個々の研究者が解読したDNA配列がどの生物のものなのか、特定することができる。

※メタゲノム解析
 海の水や森の土といった「環境サンプル」を採集し、そのサンプル内に存在する生物の構成を遺伝情報(ゲノム)をもとに明らかにする研究手法。

<履修制限の方法>
教員による選抜受講を希望する人は、「志望動機」を500字以内にまとめ、4月10日までにE-mailで送付すること。

<送り先のメールアドレス>
toju*terra.zool.kyoto-u.ac.jp (もしくは hiro.toju*gmail.com)
※「*」を「@」に変えてください。
受講定員を越えた場合は、この「志望動機」をもとに選考を行い、4月12日までに本人へ通知する。

東樹 宏和

次世代研究者育成センター、特定助教
1980年生まれ
専門分野:進化生物学、生態学
趣味等:蛙や虫の声を聞いてぼーっとする、森を歩く、旅でおいしいものをたべる
ウェブサイト:
https://sites.google.com/site/toju/Home/japanese-nihongoIcon new window