“仮説実験授業”をたのしもう! 2015年度

 仮説実験授業は1963年に板倉聖宣氏によって提唱されました。氏の「科学的認識の成立過程」の理論に基づいて運営される科学教育の内容と方法で、「科学の最も一般的基礎的な諸概念・諸法則・諸理論を体得させると共に科学的認識を発展させる方法を体得させようとする科学教育」(板倉聖宣著『科学と方法』季節社(1969))です。誰が授業をしても安定して生徒さんに歓迎される授業が出来るまで、授業運営の再現性を実現する「授業書」と云う形の総合的な教材が研究開発されています。授業書に沿って、問題・予想・討論・実験を積み重ね、科学を体験的に学んでいきます。<授業書に沿って授業を進める>という方法論によって、「授業」を一回性のナマモノでなく、再現性のある科学の対象にすることができ、科学的な教育研究が可能になりました。

 初期には「科学入門教育」に関して開発されました。今では社会の科学などについても多くの授業書が開発されています。ところでこの「科学入門教育」という6文字の熟語は、一般的な言葉のような気がしますが、従来の教育学にはそういう術語がなく、専らそれは仮説実験授業の言葉なんだそうです。実際googleなどで検索すると、科学・入門・教育、のそれぞれの単語には引っかかるけど、6文字の一語としては仮説実験授業関係しか出てこないですね。仮説実験授業の本質に関わる象徴的なことのひとつだと思います。詳しくはまたゼミでお話しましょう(^^)。

 仮説実験授業は当初小学校での実験授業で研究開発され、現在も小学校で行われることが多く、中学校や高校での実践もありますが、通常の教科書授業や受験対策に押されてやりにくくなっているようです。それでは大学生対象には全く適さないようですが、初めて学ぶ事柄について、そのイメージを形成していくと云うか「科学的認識の成立過程」は、無論、論理力の個人差が出ることもありますが、学年に依らない普遍的な面があります。大人もこどもも変りません。実際、親子講座も主催したりしていますが、こどもを連れて来たお母さんお父さんの方が熱心になることもよくあります。仮説実験授業を受けてみて、自分の「科学的認識の成立過程」を省みることは、どの分野に進むにしても、これからの自分の研究での思考法を拡げる役に立てて貰えると期待しています。

 将来の役に立つ、と云うだけでなくゼミの時間そのものをたのしんで貰うことがそもそもです。自分の予想が外れても、予想を実験で確かめていくその繰り返しの作業で、みんな一緒にひとの意見も聞いてひとの意見に影響されて、自分の脳みそがほぐれるという感覚を純粋にたのしんで下さい。実験を通じて<知識>を得るのではなく、<科学的に考えられる自分>の手応えに満足感を味わって貰いたいと思います。

舟橋 春彦

所属:国際高等教育院
職名:教授
1963年生 愛知県出身
専門分野:基礎物理・物理教育研究
趣味等 :物理、あやとり、木版年賀状