遺伝子発現制御事始め:遺伝子を機能させるということ 2015年度

 今年で四年目のゼミです。
 科目名の英訳をgene expression101としました。101は、アメリカの大学では、初年時の入門コースにつけられるタイトルです。何の知識のないひとに新しい知識を吸収してもらえるように設定されるクラスです。このゼミは、そのタイトル通り遺伝子発現について、一から学んでもらおうというものです。
 高校時代に生物を履修したヒトには、おおよその内容は想像がつくかもしれませんが、そうでなければ、“遺伝子発現って、いったいなんのこっちゃ”と思うのが当然です。

 すっかり有名になった遺伝子ですが、単に存在しているだけでは何の役にも立ちません。図書館の蔵書と同じで、誰かが手にとって読まれなければ何の役にもたちません。本を取り出して、読まなければ知識として活用されることも、伝播されることもありません。
 遺伝子DNAを読みとり、役に立つ情報に書き換えるのが転写です。遺伝子が発現するということは、まさにこの転写によって起こるのです。
 大ざっぱな言い方をすれば、生命現象は、必要な時、必要な場所で、必要なだけ遺伝子が発現(転写)されることで、制御されています。つまり、この制御メカニズムが理解できれば、生命現象の根幹は理解できるということです。といってもそんな簡単なことではありませんが…。

 例えば、熱などのストレスに反応して発現する特異的な蛋白質としてストレス蛋白質が知られています。この蛋白質の発現はどのように制御されているのでしょうか。熱などのストレスは何が感知するのでしょうか?シグナルはどういう形で細胞内を伝わり、遺伝子(DNA)が存在する核に受け渡されるのでしょう?核が受け取ったシグナルはどういう機構で特異的に遺伝子を活性化し、その遺伝子を発現するのでしょう?これらの疑問に回答が与えられよう、発現制御に関して基礎的な知識を提供したうえで、様々な事象について一緒に考えていきたいと思います。
 転写のメカニズムが理解できれば、人工的に遺伝子の発現も制御できます。ゼミのまとめとして、それぞれに興味のある遺伝子を思い通りに発現する仕組みを考えてもらいたいと思います。将来、実験計画を立てる時、あるいは、諸問題に対して回答を与える、いいトレーニングになると思います。
 科学は、ある意味では、推理小説の謎を解くのに似ています。仮説を立て、証拠を集めて犯人(原因)を追いつめていく。その過程を楽しんでもらいたいと思います。

 昨年は受講生を三つのグループに分け、ゼミの終わりの一月ほどをかけ、それぞれ興味ある事象について、それを遺伝子レベルで解決する方法を考えてもらいました。最初はとまどっていたようですが、徐々にいろいろな考えが生まれ、興味深いレポートにまとめあがりました。
 文系、理系を問いません。遺伝子発現を手がかりに、生命科学の一端にふれながら、一緒に楽しみませんか。

平芳 一法

再生医科学研究所・講師
趣味:山歩き(最近いっていませんが)
   飼い犬(ゴールデンリトリバー、メス10歳)と散歩すること